劇的でなくていいー日常のスケールで。|2026年8月後半の読書から。
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2026年8月後半の読書から、3冊をご紹介します。
もう真夏のような暑さからひんやりとした空気に変わる8月の終わり。
今月、誕生日を迎え一つ歳を取りました。人生の後半を意識するようになったこともあり、自分の半生を振り返り今後を見据えながら、無意識に選んでいたような三冊。
少し先を歩く女性たちの生活とお金、メンタルなどを教えてもらうような読書になりました。
💬これまでご紹介した本はこちらからご覧ください。
📚ゆるく、平熱、贈与論
著者:藤野千夜
出版年:2026年
出版社:ポプラ文庫
主人公は幼なじみの「なっちゃん」と「ノエチ」。五十代になった二人が同じ団地に住み、毎日のように顔を合わせ、十代のように遊び、食べ、出かけ、まったりする——ただそれだけの日々を描いた連作短編集です。勝手気ままで神経質ななっちゃんと、ぐずぐずのんびり屋のノエチ。凸凹した二人の掛け合いが、心地いい。
他者の生活を覗き見て、共感したり、なるほどと思ったり、くすっと笑ったり。小難しくなく、説教臭くなく、伏線も回収もない。何も残らないといえばそうでもなく、読み終わるともう一度最初から読みたくなるのはなぜだろう。毒や辛気臭さをあっけらかんと喋ってどこかに飛ばしてしまう、この軽やかさ(案外難しいものですから)。
人との境界、友人、家族、隣人。その関係の中に配慮や贈与に対する大人の対応と気配りが混じっています。世間を知った者同士だから、その関係はゆるくつながっている。一話の最後には恒例の「本日の売り上げ」と「本日のお買い物」がおまけのようについていて、これがまた楽しい。
収支というのはうまくできていて、多くを得たら多くが出ていくものです。出ていく分は浪費ではなく、感謝・お礼・餞別・慰安として使われる。ささやかな美味しいものに変わる。人が毎日食べて飲まないと生きていけないように、お金も出たり入ったりのサイクルを途切れないよう小さく動かしていく知恵——なっちゃんの日々のネットオークションやフリマアプリだったり、ノエチの非常勤講師の掛け持ちだったり。
そのさりげない生活の描写の中に、現代を生き抜くヒントがひそんでいます。
📚作者が自分に言ってあげたい言葉。
著者:一田憲子
出版年:2026年
出版社:主婦の友社
「褒められたい」。
その気持ちの中心に近づこうと、円の周辺をぐるぐると旋回しながら距離を縮めていく、そんなエッセイ集です。誰かに「褒めてもらいたい」。とガンバっていた昔の自分、幼少の頃から「優等生」だった自分。そう、この気持ちに大きさがあるとすれば、作者は相当大きく強い方だといいます。
自分自身の「かいじゅう」(洗っても洗ってもこびりついて最後まで残る汚れのような、「褒められたい」という気持ち)を、怒らせないように、すねたり駄々をこねたり、振り回されないようにと、現実に生きる自分がすること。それは、生活の中で自分にご褒美をあげたり楽しませたりして暮らしていくことです。
仕事中心になりがちな毎日から、テニスのレッスンに夢中になったり、オーディブルで小説を聞いたり、You Tubeを見たり、朝のウォーキングに柔軟体操、食後のおやつや、お風呂で使う石鹸の香り、寝る前の贅沢な時間・読書など。あっ!それと近所の美味しいコーヒー豆やパン屋さんも忘れずに。
日々の生活。衣食住。そこに、ほんのひとさじみたいな視線を投げかけて、ひと時を味わう様子が描かれています。
「〇〇には△△が効く。」という処方箋的なエッセイではなく、作者もまた凸凹道を歩き、悩み、諦め、でも続けながらの現在進行形を綴っているところが、またいいのです。
📚普段の買い物で手を止めて
著者:原田ひ香
出版年:2018年
出版社:中央公論新社
「人は三千円の使いかたで人生が決まるのよ」と祖母が言った。
本書は主にお金を「増やす」よりも「貯める」ことに主眼が置かれており、節約、家計簿、支出の見直しを通じて「何のためにお金を貯めるのか」をテーマに書かれています。
登場する四人の女性はそれぞれ異なる状況にいます。貯蓄の意味も目的もまったく異なる四人の視点を通して語られるお金の存在は、決して小さなものではなくシビアで生々しい。老後のため、離婚後のため、家族を守るため、これからの人生のため——日常の中で小さく実践していく貯蓄の姿が、それぞれの物語として積み重なっていきます。
そして人生は、何が起こるかわからず、誰に出会うかもわからない。その未確定要素が山ほどある中で、記録し可視化するという昔ながらの家計簿という方法が、今ではブログとなり不特定多数の目に晒されることで継続されています(次女・美帆はお金、貯蓄、恋人との関係をダイレクトに書いています)。時代が変わっても、お金と向き合う方法の本質は変わらないのかもしれません。
自分の小さな選択が行き先を決めるとき、普段の買い物で手を止めてこの本を思い出すだろう。
三冊を並べて
伏線も回収もない団地の日常、褒められなくても生きていいという気づき、三千円という小さなお金が照らす人生観——三冊はどれも、劇的な展開も大きな結末もありません。
共通しているのは、他者の評価や成果ではなく、自分自身のスケールで日常を測り直すことです。これまでよりも、これから(わたしが誰と)どう生きるか、生活していくかを描いた現在進行形の物語でした。小さな選択の手前で、ふと手を止めて、目に留めて気付けるように。そんな些細なことが緩やかな下り坂(人生の後半にむけて)で大けがをしないためのコツなのかもしれません。
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