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2026展覧会レポート#25|リナ・バネルジー“You made me leave home...@エスパス ルイ・ヴィトン東京

  • 5 日前
  • 読了時間: 6分

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


東京・表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京で開催中の、

リナ・バネルジーの個展「You made me leave home...」に足を運びました。


展覧会後の最初の言葉は、ただひとつ—「圧巻」


表参道のエスパス ルイ・ヴィトン東京で開催中、リナ・バネルジー個展レポート。ファウンド・オブジェクトと絵画19点が生み出す圧倒的な美しさと、いまこの展覧会が持つ意味を鑑賞体験から綴ります。入場無料・9月13日まで。

2026年3月19日(木)ー9月13日(日)|リナ・バネルジー“You made me leave home...|エスパス ルイ・ヴィトン東京


展覧会について


本展は、南アジア系ディアスポラのアーティスト、リナ・バネルジーの個展です。


ファウンド・オブジェクトを使った幻想的なインスタレーションと絵画、全19点を展示。


エスパス ルイ・ヴィトン設立20周年と、フォンダシオン ルイ・ヴィトン「Hors-les-murs(壁を越えて)」プログラム10周年、ふたつの節目を記念して開催されました。



アーティスト、リナ・バネルジー


1963年、インドのコルカタ生まれ。

現在はニューヨークを拠点に制作するバネルジーは、高分子工学の修士号を取得したのち、イェール大学で絵画・版画の修士号を得るという異色の経歴を持ちます。


ポストコロニアル・フェミニズムの視点から、多様なサイズ・形・色彩を持つ女性像を制作し続けており、「男性の視線から女神を解き放ち、文化における想像力を支配する性的な表象から彼女を解放すること」に注力しています(展覧会HPより)。



会場に入った瞬間


ルイ・ヴィトン表参道ビルの7階。

一面ガラス張りで自然光が差し込む、天井の高いホワイトキューブ。


エレベーターのドアが開いた瞬間、まるで空に浮かんでいるかのような感覚に包まれました。


気球のようなインスタレーション、シャンデリアのような造形、色鮮やかな絵画。

遊園地に来たようなワクワク感が身体を駆け抜けます。


しかしその昂揚は、一瞬で終わりました。


人形を見た瞬間、ぞくりとしました。

思わず目を背けたくなるような気味の悪さ。

鳥類の羽根の模様、アダムス・ファミリーを思わせる禍々しさ。


午後2時過ぎの会場には光がたっぷりと差し込んでいるのに、触れてはいけない空気。

幻のような、幻滅したような世界が、そこに静かに広がっていました。



作品を巡る

❚《Black Noodles》(2023年)


会場入口でまず出迎えるのは、《Black Noodles》(2023年)。

人毛の国際取引と政治的背景をテーマにした近作で、ウェーブした長い黒髪が鉄のオブジェや螺旋状のロープに絡みついています。

遠くからはシャンデリアのような優雅さを湛えながら、兜ガニや巻貝といった貝類も組み込まれ、近づくほどに不穏な気配が増してゆく。

迂闊に踏み込むことをためらわせるような、鋭い凶器性を帯びています。


❚5点の小品

こちらは、アジア的な顔立ちの女性人形たちです。

鳥の羽根、木靴の木型、貝殻、ランプシェード、鉄製のアーム、古いリボンやテープ、布。

それらを過剰なまでにまとった人形たちは、辱めを受けているようでもあり、呪術の道具のようでもあり、子どもが無邪気に遊んだあとのようでもある。


この人形たちは何者なのか


男性の視線だけでなく、同性から、あらゆる年齢の人から見られ、汚され、使われ、摩滅した「わたし」としての人形=女性が、そこにいるのではないか。


その姿を堂々と人前に露出するバネルジーの行為は、暴力に対する、無言の叫びではないか。そう思わずにはいられませんでした。


❚《In an unnatural storm…》(2008年)

会場奥に鎮座する最大の作品が、《In an unnatural storm…》(2008年)。

鋼鉄製のドームが天井から吊り下げられ、気球のような球体に無数の日本傘が組み合わさります。

本物の鳥の羽根、卵、家具の断片、動物の角、電飾ライト、地球儀、大小さまざまなガラス瓶。


作品はゆっくりと旋回していました。

ジュール・ヴェルヌの『八十日間世界一周』から着想を得たこの700×400×400cmの大作は、世界を巡る旅の驚異と危うさを体現しています。

微かな浮遊感が、まるで生命を宿した機械のようでした。


なお、バネルジーの各作品には長い詩のようなタイトルが付けられています。

素材のひとつひとつを羅列したそのタイトル自体が作品の構成要素であり、鑑賞のもうひとつの入口となっています。


❚新作絵画13点

2025年の新作絵画13点は、白いフレームの額に収められたアクリル画です。

ダイヤ型に配置された大小さまざまなキャンバスには、染料・アクリル・コーヒー・重曹・ニスなどを用いてヒンドゥー教の女神を想起させる女性像が描かれています。


宗教画の崇高さと俗っぽさが同居し、東アジア的な筆致でありながら西洋絵画とはまったく異なるオリエンタルな美しさ。


絵画とインスタレーションは会場で互いに共鳴し合い、アーティストの色彩感覚とモノとモノを組み合わせる感性が、空間全体を統御しています。



なぜ、いまこの展覧会なのか


私がこの展覧会に惹きつけられた理由を、自分の鑑賞の足跡から辿ると、ひとつの問いに行き着きます。


針と糸、そして女性を歴史はどう扱ってきたか、という問いです。


2025年以降の東京の美術展を振り返ると、その問いに向き合う展覧会が確実に増えています。


千人針、お針子、戦前・戦中の女性の手仕事。


それらを想起させるモチーフが現代アートの文脈で再び浮上していることは、偶然ではないと思います。

極端な男性性が世界情勢を動かし、戦前に近い空気が静かに忍び込んできているいま、女性の声と手仕事と叫びを作品として放つアーティストたちの存在は、時代への応答です。


リナ・バネルジーもまた、その一人です。


ポストコロニアリズムとフェミニズムを交差させながら、解体され、摩滅し、それでも存在し続ける女性の姿を、圧倒的な視覚的美しさのなかに刻み込んでいます。


ひとつひとつの作品が強烈な主張を持ちながら、会場全体が生み出す印象はむしろ優雅で、卓越した美しさに満ちていました。



この展覧会を見て


私がこの展覧会に足を運んだのは、圧倒的なビジュアルに惹かれたからです。


現代アートとは、作品が場と空間にどう配置されるか。


そのビジュアルのインパクトと美しさが決定的な要素になる。

ダイナミックに、繊細に、美しく、魅力的に、ユーモアと狂気を内包したまま人の関心を引き続けること。


リナ・バネルジーは、自身の境遇と背景から生まれる圧倒的なエネルギーを、すべて作品に注ぎ込んでいます。


その精神性と感覚と体力の結晶が、いま東京にある。

私はただ言葉を失い、打ちのめされるばかりでした。


あなたは、バラバラにされた女性を直視することができるでしょうか?


会期:2026年3月19日(木)ー9月13日(日)

会場:エスパス ルイ・ヴィトン東京

開館時間:12:00〜20:00(エキシビション会期中のみ)

入場料:無料


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