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削る・刷る・確かめる。その反復が作品をつくる

  • 4 日前
  • 読了時間: 7分

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


今日は、私が以前しばらく取り組んでいた リノカット版画(リノリウム版画) について、少しお話ししたいと思います。


リノカット制作を通して感じた思考の流れや、線を選ぶときの感覚について綴ったエッセイです。
削る・刷る・確かめる。その反復が作品をつくる。

リノカットとはどんな版画?


リノカット版画は、リノリウムというゴムに似た素材を版にし、彫刻刀や専用の彫り具で掘り進めて作る版画です。


木版画と同じ凸版で、掘った部分には色がつかず、掘らなかった面がインクを受け取って紙に刷り取られます。


一方で銅版画は凹版なので、彫った溝に色が入り、その線がそのまま絵になります。


版の仕組みだけで、作品の表情がまったく変わってしまう点が面白いところです。



手軽さとダイナミックさが同居する技法


リノカットの魅力は、とにかく手軽に始められること


特別な技術がなくても「ガシガシ掘る」ことができ、その勢いがそのまま作品の力強さにつながります。


インクがのる面はベタになるので、必然的に 大胆で明快な構図 になっていきます。


細い線も出せますし、大きな面の効果も使えるので、表現の幅は意外と広いんです。


私自身もこの技法に取り組んでいた頃は、黒一色で画面を作る ことのストイックさに惹かれていました。



バージニア・リー・バートンという作家を知っていますか?


リノカットの話題になると必ず触れたいのが、アメリカの作家 バージニア・リー・バートン(Virginia Lee Burton)。


絵本『ちいさいおうち』(岩波書店)でご存じの方も多いと思います。


彼女は近所の女性に息子のバイオリンを習わせようと頼みに行ったことがきっかけで、逆に「あなたにデザインを教えてほしい」と頼まれます。


そこから仲間とともにフォーコリーズ・デザイナーズというデザイン工房を立ち上げ、そこで制作されていたのが リノカット版画 でした。


バートンのリノカットは、どれも アシンメトリーで洗練されていて、装飾性が高く、本当に美しい作品 ばかりです。


線で輪郭を囲わず、白と黒の“面”で構成されているため、デザイン的にも非常に完成度が高いのが特徴です。


📍テキストの最後にコラムあり



現代のリノカット事情と新しい画材


最近では、リノカットは小学校の図工でも扱われていますし、NHKの教育番組でも「彫り進め版画」という形で紹介されていました。


ピカソが使っていた「複版(多色刷り)」の技法を子ども向けに紹介しているのを見ると、版画の世界が改めて広がっているんだな、と実感します。


そして嬉しいニュースがひとつ。2024年11月に フランスの画材メーカー・ペベオ から、リノカット専用の水性インクが発売されました。


これまで木版用の油性インクを流用することが多く、扱いにくさが課題でしたが、水性インクは扱いやすく、発色も良く、制作の自由度がぐっと高まっています。


黒一色の世界も好きですが、色を重ねてカラフルな作品にするのも面白いだろうな、と制作欲がまたむくむくと湧いてきています。



これからの制作にどう取り入れるか


版画は、油絵やドローイングと比べると、工程が明確でリズムがあるため、今の自分の制作に取り入れるとまた違う発見があるのではないかと感じています。


特に、彫る時間そのものが無心でいられる ので、制作リズムの調整にもすごく良いです。


黒と白だけで構成される世界から、どんな新しい表現が生まれるのか──自分自身でも楽しみです。



 🪞【特別コラム】「ちいさいおうち」の作者、ヴァージニア・リー・バートンが描いた“踊るような”世界と生活デザイン


『ちいさいおうち』や『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』。子供の頃、一度はこの絵本に出会ったことがあるのではないでしょうか。


作者のヴァージニア・リー・バートン(Virginia Lee Burton)は、アメリカを代表する絵本作家でありながら、実は優れたテキスタイル(布)デザイナーでもありました。彼女の生涯を紐解くと、あのダイナミックな絵の秘密と、地に足のついた生活者としての哲学が見えてきます。


💃 1. ダンサーから絵本作家へ:画面の中で「踊る」絵


1909年、アメリカのマサチューセッツ州に生まれたバートン。

彼女のキャリアの原点は、意外にも「絵」ではなく「ダンス」でした。

父親がマサチューセッツ工科大学(MIT)の学部長という知的な家庭で育ちましたが、彼女自身はプロのダンサーを目指してバレエを学んでいました。しかし、父の怪我により家計を支えるため、絵の道へと転向します。

彼女の絵本の特徴である、うねるような構図リズミカルな曲線、そしてページをめくるごとに舞台が展開していくような構成は、彼女が身体で覚えた「ダンスの感覚」がそのまま絵筆に乗り移ったものだと言われています。彼女にとって、絵本のページは一つの「舞台」だったのです。


📚 2. 時代を超える名作たち


バートンの作品は、単にかわいいだけでなく、文明の発展や自然の摂理といった壮大なテーマを、子供の目線で優しく語りかけます。

  • 『ちいさいおうち』(The Little House, 1942年)

    • コールデコット賞受賞作。のどかな丘に建つ一軒の家が、周囲の都市化によってビルに囲まれていく様子を描き、変わるものと変わらないものの尊さを伝えました。

  • 『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』(Mike Mulligan and His Steam Shovel, 1939年)

    • 時代遅れになった蒸気シャベルのメアリー・アンが、最後に新しい「居場所」を見つける物語。働くことの喜びと誇りが描かれています。

  • 『せいめいのれきし』(Life Story, 1962年)

    • 地球の誕生から現在までを、壮大な劇場形式で描いた野心作。彼女の集大成とも言える一冊です。


✂️ 3. 生活を彩るデザイナーとして:フォリー・コーブ・デザイナーズ


絵本作家としての顔の裏で、彼女はもう一つの情熱を持っていました。

それが「リノカット(リノリウム版画)」によるテキスタイルデザインです。

彼女は暮らしていたグロスターの入江(フォリー・コーブ)で、近隣の主婦たちを集め、「フォリー・コーブ・デザイナーズ」というデザイン集団を結成しました。


「身近なものを描きなさい」


バートンはそう指導し、彼女たちは地元の植物や動物、日常の風景をモチーフに版木を彫り、インクで布に刷り上げました。それらはスカートやテーブルクロスとなり、ただの手芸サークルを超え、ニューヨークのデパートで扱われるほど高い芸術的評価を得ました。


🎁 4. 技術を「贈与」し合うコミュニティ


この活動は、以前の記事で触れた「ギフトエコノミー(贈与経済)」の精神と深く通じるものがあります。

バートンは、自身が持つプロフェッショナルなデザインの知識やリノカットの技術を独占することなく、近隣の女性たちへ惜しみなく「贈与」しました。

そこにあったのは、単なる労働と賃金の交換ではなく、「創る喜び」「知恵の共有」によって結ばれた深い信頼関係です。




🌿 結び:生活そのものを愛した人


バートンは、絵本の中でも、日々の暮らしの中でも、常に「手仕事の温かみ」「コミュニティとの繋がり」を大切にしました。

大量生産・大量消費の時代が進む中で、彼女が「ちいさいおうち」で警鐘を鳴らし、「フォリー・コーブ・デザイナーズ」で実践したのは、自分たちの手で生活を美しく彩るという、シンプルですが力強い思想でした。

彼女の作品が今も色あせないのは、そこに「地に足のついた生活への愛」が溢れているからかもしれません。



【BASE:オンラインショップ】


BASEではポストカードやドローイング作品を取り扱っています。是非一度ご覧になってみてくださいね。2026年のカレンダーを販売します。

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artmegumi はじめまして。現代アーティスト、カラサワメグミ(Megumi Karasawa)です。この度は、私のショップ「artmegumi」へお越しくださり、誠にありがとうございます。【 artmegumi について:『不定形の創造の源』を耕すバーチャルギャラリー】「artmegumi」は、私、抽象画家・カラサワメグミが手掛けたポストカードやZINE(ジン)をお届けするオンラインショップです。BASEショップは、好きな時にふらっと立ち寄っていただける「バーチャルなギャラリー」をイメージしています。私の作品を通して、日々の喧騒から離れ、心ほぐれる「余白の時間」を味わっていただけたら幸いです。【作品に込めた想い:揺らぎと創造の探求】私は常に「何者でもない自分」という感覚と、創作への初心者のような不安や恐怖を抱えながら作品と向き合っています。しかし、その一方で、物事に対する鋭い観察力と繊細な感情を大切に、自身の個人的な記憶を耕すように作品を生み出しています。アートという大きな分野の中で、既存の枠に囚われず「小さな破壊と創造」を繰り返すことで、私なりの表現を追求しています。この創作の根源にある想いは、私のブログ記事「自分がコントロールできない環境でも:生身の人間はなぜ『表現』をせずにはいられないのか」→https://megumikarasawa662.wixsite.com/engraverでも詳しく綴っていますので、ご興味があればぜひご覧ください。【作品を通じて届けたいこと】私がポストカードやZINEを制作する上で大切にしているのは、「まるで絵画を鑑賞しているかのような、没入感のある体験」です。ZINEでは、私の文章を通してご自身という枠から離れて、別の想像世界に入り込むような、そしてポストカードは、その作品のミニチュアとして、手元で気軽にアートに触れる機会を提供します。これらを通じて、身体ごと揺らぐような、心地よい余白の時間をつくっていただけたら、この上なく嬉しいです。【ショップ情報その他】●ショップURL: https://artmegumi.base.shop/●BLOG:https://megumikarasawa662.wixsite.com/engraver●note:https://note.com/brisk_toucan7182/n/ne0c96bb7fd92●Pinterest:https://jp.pinterest.com/artmegumikarasawa/●Instagram:https://www.instagram.com/art.megumi.karasawa/

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