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書が泣き叫ぶ――井上有一《噫横川国民学校》を前にして

  • 11月4日
  • 読了時間: 2分

書とグラフィックデザインという異なる領域を並置する本展覧会は、戦後の視覚文化を再考する貴重な機会でした
書とグラフィックデザインという異なる領域の展覧会

井上有一《噫横川国民学校》が伝える「書の叫び」


渋谷区立松濤美術館で開催中の「井上有一の書と戦後グラフィックデザイン 1970s–1980s」展を観ました。

後期展示のなかで、もっとも強く心に残ったのは《噫横川国民学校》(1978年)という作品です。


空襲体験を経て生まれた一枚の書


井上有一は、戦時中に国民学校の教員をしていました。

空襲によって勤務先の小学校が爆撃され、子どもたちや同僚を失ったという体験を、後年この作品として書き残しています。


黒々とした墨の滲みと、重なりあう筆の軌跡。その一字一字が、まるで叫び声のように迫ってきました。


文字を拾っていくと、

「火」「殺さる」「白骨」「死体」「火葬」「生残者」「断末魔」「終生忘るなし」

などの言葉が現れます。

どれも痛ましく、読み進めるほどに胸が締めつけられました。



書は生きている――言葉を超えた表現としての「書」


筆は怒りに震え、墨は泣き、言葉は叫びとなって紙面に刻まれる。

それは「書」を超えて、命の痕跡そのもののように感じられます。


井上は「書は生きている」と語りましたが、その言葉の意味が、目の前で実体を伴って立ち上がるようでした。



松濤美術館で出会う、戦後日本の“書とデザイン”の交差点


戦後の日本で、ここまで人間の存在そのものをかけて「書く」ことがあっただろうか。

《噫横川国民学校》は、単なる文字ではなく、「生きる」と「死ぬ」のあわいに書かれた、生そのものの記録でした。


美しいというより、恐ろしく、しかし目をそらせない。――この作品を前にすると、「書」は再び現代アートの只中に戻ってくるのだと感じました。



井上有一の書と戦後グラフィックデザイン 1970s-1980s

2025年9月6日(土)~2025年11月3日(月・祝)

松涛美術館


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