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「人はなぜ理解しようとするのか」「物語とは何か」ー黄金と緑。1月前半の読書から。

  • 1月15日
  • 読了時間: 5分

更新日:1月30日

📍いつもブログを読んでくれてありがとうございます。


1月前半に読んだ本の中から、特に印象に残った2冊を紹介したいと思います。


どちらもまったく性格の異なる本でありながら、


「人はなぜ理解しようとするのか」

「物語とは何か」


という一点で、私の中では強くつながっていました。


💬2025年12月の読書記録。


連休の穏やかな天気の中で見つけた梅のつぼみと、針と糸で進める制作の時間。冬から春へ移ろう気配を、静かにすくい取る制作ノートです。
小川哲が描く「黄金」とは。

小川哲『君が手に入れるはずだった黄金について』


まず一冊目は、小川哲さんの短編集『君が手に入れるはずだった黄金について』です。


これまで小川哲の作品を読んだことがなかったのですが、この本は最初の1ページを開いた瞬間に、「あ、これは好きな本だ」と直感的に感じました。


この短編集は、いわゆる「成功」や「才能」、あるいは「評価」といったものを「黄金」と呼び、それを追い求める人々の姿を描いています。


しかし人間ドラマではなく、その背後で「小説を書くこと」「小説を読むこと」そのものが問われている点が、この本を非常に知的で刺激的なものにしています。


とくに印象的だったのは、作中に次々と実在の本や作家の名前が現れることです。


タイトルや著者名が出てくるだけで、読者の中に過去の読書体験やイメージが立ち上がる。


その「想起される感覚」を、物語の一部として巧みに組み込んでいる点が、とても現代的だと感じました。


しかもその引用や参照が、単なる知識の誇示ではなく、「読書することそのものの感触」に結びついている。


自分も読んだことのある作品が出てくると、不思議な親近感が湧き、作者と読者の感覚がふっと重なるような瞬間が生まれます。


文章はきわめて論理的で、構造も精緻なのですが、決して難解ではありません。


抽象的な言葉に逃げるのではなく、具体的な例やイメージで思考を導いていくので、読み手は自然と「考える」モードに誘われます。


文学でありながら、哲学や批評にも触れているような読後感があり、そのバランスが非常に心地よい一冊でした。


この本をきっかけに、小川哲という作家をもっと読みたいと思い、すでに何冊か次の本にも手を伸ばしています。


💬プロローグ全文読めます。


1月前半に読んだおすすめの2冊、小川哲『君が手に入れるはずだった黄金について』とラバトゥト『恐るべき緑』を、物語と真理の視点から読み解く読書記録。
ラバトゥトが描く「緑」は、科学が暴き出してしまった世界の真の姿。

ベンハミン・ラバトゥト『恐るべき緑』


二冊目は海外作品、ベンハミン・ラバトゥト『恐るべき緑』です。


1980年生まれ、アルゼンチン出身の作家で、オバマ元大統領の「2021年夏の読書リスト」に選ばれたことで世界的に知られるようになった一冊でもあります。


この本は、20世紀の天才科学者たち――数学者、天文学者、化学者――の人生と業績を扱いながら、エッセイと小説、事実と虚構が混ざり合う独特の形式で書かれています。


テーマはきわめて根源的で、「理解しようとする意志が、いかにして人間を破滅させるか」という問いが、全編を通して流れています。


扱われているのは、第二次世界大戦前後の天才たちの運命ですが、化学や数学の専門知識がなくても読めるように、抽象概念や思想のレベルで丁寧に書かれています。


むしろ「分からない」という感覚を抱えたまま読むことが、この本の本質に近づく読み方なのではないかと感じました。


実在の人物を扱いながら、エピソードはフィクションで構成されているため、現実と作り話の境界が曖昧になります。


その曖昧さが、かえってリアリティを生み、人間の弱さや狂気が生々しく浮かび上がってきます。


とくに印象的だったのは、彼らの「理解したい」という欲望です。


私たちの想像を超える頭脳を持つ人々であっても、その探究心は時に自分自身を壊してしまう。その姿が、この本では美しくも恐ろしく描かれています。


翻訳も非常に優れていて、海外作品でありながら文章がすっと頭に入ってきました。


これは、日本語としての完成度が高いという意味でも、とても重要な要素だと思います。


💬単行本刊行時のインタビューや、新潮社の広報誌『波』、あるいは各種文芸誌のインタビューにおいて、小川さんは『恐るべき緑』を「21世紀で最も衝撃を受けた一冊」として繰り返し挙げています。



フィクションと真理の境界線で


この2冊が、1月前半の私の読書体験の中心でした。


興味深いのは、この2冊が、小説とノンフィクション、虚構と事実、成功と破滅といった対極的な要素を、まったく異なるアプローチで扱っていることです。


小川哲さんが描く「黄金」は、人が欲してやまない輝きであり、たとえ偽物であっても信じたくなるものです。


一方、ラバトゥトが描く「緑」は、世界の真理に近づきすぎたときに現れる毒のようなものです。


どちらも、人間が「知りたい」「意味をつかみたい」と願うことから生まれています。


黄金

どちらも人間の欲望を象徴する色でありながら、その性質は正反対です。

小川哲

ラバトゥト

黄金(成功・才能・物語)

緑(科学・真理・毒)

人を救う幻想

人を壊す現実


そして、その欲望こそが、物語を生み、同時に人を傷つけもする。


1月後半には、またどんな本に出会うのか楽しみです。


この2冊が示してくれた思考の深さと余韻は、しばらく私の中に残り続ける気がしています。


読書という行為は、自分の感覚と世界の境界を揺さぶる体験なのだと、あらためて感じさせてくれた2冊でした。



BASEでは2026年カレンダーを始め、ポストカードやドローイング作品を取り扱っています。是非一度ご覧になってみてくださいね。


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