映画『バレンと小刀 時代をつなぐ浮世絵物語』鑑賞記録|音で継承される木版画の仕事
- 2025年12月17日
- 読了時間: 6分
📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
年内に見ておきたい展覧会の予定を立てました。
某日、そのひとつとして足を運んだのが映画「バレンと小刀」でした。
💬この二つは最低でも観ておきたい!

映画『バレンと小刀』に惹かれる背景
『バレンと小刀 時代をつなぐ浮世絵物語 』
すでに公開されている映画で、ぜひ観に行きたいと思っている作品があります。
それが、『バレンと小刀』というドキュメンタリー映画です。
この作品は、木版画の制作に欠かせない木版画を製作する現代の職人とその工房を描いた映画です。
ちょうど最近、葛飾北斎や、その娘である応為(おうい)に関する展覧会や本を少しずつ読んでいたこともあり、とても良いタイミングだと感じました。
木版画という技法は、完成した作品の華やかさとは裏腹に、その背後に膨大な工程と、名もなき職人の技術が支えています。
そうした「表に出にくい部分」に光を当てる映画は、作品を見る視点そのものを変えてくれることがあります。
💬某日、観に行ってきました
道具の映画であり、人の映画であるということ
映画『バレンと小刀 時代をつなぐ浮世絵物語』を鑑賞しました。
タイトルに掲げられているのは道具の名前ですが、この映画の主役は、やはり人でした。
バレンと小刀という、木版画制作に欠かせない道具を軸にしながらも、この映画が映し出していたのは、現代に技術をつなぐ若い職人たちの姿でした。
彼らは、いわゆる「師匠と弟子」という強固な関係性の中で育った世代ではありません。
職人という言葉から想像されがちな、堅苦しさや過度な緊張感はなく、淡々と、しかし確かな意志をもって仕事に向き合っている様子が印象的でした。
木版画制作の現場──分解と集中の積み重ね
映画の中では、木版画制作の具体的な工程も丁寧に描かれています。
一枚の完成された絵は、色ごとに分解され、それぞれ別の版として彫られていきます。
彫りの工程は、圧倒的に時間のかかる仕事です。
一枚の本画に対して、六枚の版を彫り、完成までに二か月を要することもあります。
細部まで神経を張り巡らせながら、長時間、無言で版に向き合う。
集中力と忍耐が求められる仕事であることが、静かな画面からも伝わってきました。
刷りの工程では、本画(元絵)にどれだけ近づけられるかを目指し、校正が何度も行われます。
校正のたびに、一から刷り直す作業が必要となり、その積み重ねが作品の完成度を支えています。
技術の「継承」が前面に出ない理由
興味深かったのは、「技術の継承」という言葉が、あえて強く語られていない点でした。
映画に登場する若者たちは、すでに修行期間を終え、一定の技術水準をクリアした職人です。
そのため、技術そのものを教え込まれる場面よりも、「どう生きていくか」「どう仕事を続けていくか」という現実的な問いが浮かび上がってきます。
全国でも五十人に満たない木版画の職人として生活していくために、アダチ版画研究所が選んでいるのは、現代の絵師やアーティストの作品を積極的に木版画として制作することでした。
それは、技術の応用であり、同時に未来への投資でもあります。
版元・摺師・彫師の関係性
版元・摺師・彫師の関係についても、この映画は多くを語ります。
決定権は版元にあるものの、最終的には絵師の意向が尊重されているように感じました。
分業でありながら、上下関係ではなく、緊張感のある協働関係が成立していることが伝わってきます。
音が語る仕事の質
印象的だったのは、制作中の音でした。
バレンが擦れる音。
小刀が木に入る音。
彫師の一人が語っていたエピソードが心に残っています。
彫師の作業場の下の階には会長の部屋があり、木を削る音や彫る音に違和感があると、すぐに飛んできて
「今の音はどうした?」
と声をかけられたことがあるそうです。
木を彫る音だけで、良い彫りができているかどうかがわかる。
その言葉から、技術が身体感覚として蓄積されている世界を垣間見た気がしました。
復刻だけではない、現代との接続
この工房は、浮世絵の復刻を行う場所であると同時に、現代の絵師やアーティストと積極的に協働しています。
過去を守ることだけでなく、現在と結びつくこと。
それこそが、技術を継承し、工房が存続していくための現実的な選択なのだと感じました。
💬『浮世絵現代』2025年4月22日(火) ~ 2025年6月15日(日)では映画で制作していた作品を展示していました。
鑑賞後に残ったもの
鑑賞後に残った感情は、強い感動というよりも、共感でした。
特別な英雄譚ではなく、静かに仕事を続ける人たちの姿に、自分自身の制作とも重なる部分があったからかもしれません。
『バレンと小刀 時代をつなぐ浮世絵物語』は、木版画の映画でありながら、「続けること」「変わりながら受け継ぐこと」を、そっと問いかけてくる作品でした。
🪞【コラム 】 北斎の線を彫り、広重の色を摺る――映画『バレンと小刀』が見つめる職人の世界
現在公開中のドキュメンタリー映画『バレンと小刀』。
この映画は、世界に誇る「浮世絵(木版画)」の主役――葛飾北斎や歌川広重といった「絵師」ではなく、その影で制作を支え続ける「名もなき職人たち」にスポットライトを当てた作品です。
■ 「絵師」だけでは、浮世絵は生まれない
浮世絵は、実は「絵師(描く人)」「彫師(版木を彫る人)」「摺師(紙に摺る人)」の三者による分業で成り立っています。
どんなに素晴らしい絵も、彫師が髪の毛一本の線を彫り損ねれば台無しになり、摺師が色の濃淡を間違えれば別物になってしまいます。
この映画の舞台は、東京・目白にある「アダチ版画研究所」。 そこでは、江戸時代と変わらぬ道具――バレン(摺る道具)と小刀(彫る道具)――を使い、現代の職人たちが黙々と技術を継承しています。
■ 0.1ミリの戦い
映画が映し出すのは、静寂の中で響く「彫る音」と「摺る音」だけ。 デジタルの時代にあえて手仕事にこだわり、私たちと同じ世代か、それより若い世代の男女が淡々と静かに仕事に打ち込む姿でした。
現代アーティストの作品を木版画にするという挑戦に、0.1ミリの線に挑戦する浮世絵とは異なる、彫り進め方や工程を垣間見ることができます。
髪の毛を三分の一に彫ることも可能だといいます。
■伝統への挑戦状――現代アーティスト・共闘
映画『バレンと小刀』の最大の見どころの一つは、現代アーティストとのコラボレーション制作の過程です。
それは、江戸時代の絵具や技法を前提とした「伝統的な木版画」のルールからは、大きく逸脱した「無理難題」の塊です。
なぜ、職人たちはあえてその困難に挑むのでしょうか? それは、「伝統を守るためには、進化し続けなければならないから」です。
過去の名作(北斎や広重)の復刻だけでは、技術はそこで止まってしまいます。
現代の尖った感性とぶつかり合い、未知の表現を版画に落とし込むことで初めて、職人の技術は更新され、未来へとつながっていくのです。
江戸の「浮世絵」が当時の「現代アート」だったように。 この映画には、令和の「絵師(アーティスト)」と「職人」が、火花を散らしながら新しい浮世絵を生み出す、スリリングな創造の瞬間が刻まれています。
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