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2026展覧会レポート#06|織田コレクション ハンス・ウェグナー展

  • 1月23日
  • 読了時間: 7分

📍いつもブログを読んでくれてありがとうございます。


某日、展覧会を観に行ってきました。


当初は予定していなかった展覧会でしたが、情報を目にするうちにどうしても気になり、会期終了間近の1月18日を前に、足を運ぶことにしました。


会場は、渋谷ヒカリエホール。


この場所を訪れるのは初めてでしたが、開館直後にもかかわらず多くの来場者で賑わっており、この展覧会が高い関心を集めていることがすぐに伝わってきました。


本展は、織田コレクションによる「ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」。


展示の中心となるのは、家具、とりわけ「椅子」です。


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織田コレクション「ハンス・ウェグナー展」を訪問。椅子に裏面はあるのか──クラフツマンシップ、展示空間、使われる美しさについて考察する展覧会レポート。
2026年1月|「織田コレクション ハンス・ウェグナー 至高のクラフツマンシップ」展|ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)

椅子というモチーフが持つもの


椅子という存在には、どこか特別なロマンがあるように思います。


椅子好き、と呼ばれる人たちが一定数存在するのも、決して不思議ではありません。


私自身も、かつて銅版画工房に通っていた頃、椅子をモチーフにした作品を一点制作したことがあります。


椅子は単なる道具である以上に、そこに座る人を想像させ、同時にその不在すらも強く感じさせる存在です。


持ち主の身体、生活、時間を引き受ける器のようなものでもあります。


そうした記憶も重なり、椅子にフォーカスした本展覧会は、自然と強く惹きつけられる対象となりました。



ハンス・ウェグナーという存在


ハンス・ウェグナーは、デンマークを代表する家具デザイナーであり、クラフツマン、教育者、そしてライフスタイルの提案者でもあります。


デザイン史において、彼は「ミッドセンチュリー」や「クラフツマンシップ」という文脈の中で語られる重要な人物です。


正直に言えば、私はこれまでそれらの言葉を「知っているつもり」でいただけで、その内実を深く理解していたわけではありませんでした。


しかし本展を通して、それらが単なる様式や流行語ではなく、生活と思想に根ざした態度であることを実感することになります。


織田コレクション「ハンス・ウェグナー展」を訪問。椅子に裏面はあるのか──クラフツマンシップ、展示空間、使われる美しさについて考察する展覧会レポート。
ハンス・ウェグナー《ザ・チェア》1949

会場構成と展示の印象


会場構成を手がけたのは、建築家・田根剛氏(ATTA)。


展示空間は非常に洗練されており、どこか展覧会というよりも、上質な家具カタログの中を歩いているような感覚を覚えました。


象徴的に使われていた色は「赤」。


これはウェグナー自身が好んだ色でもあり、赤い椅子や空間のポイントとして配置された赤が、展示全体のリズムをつくっていました。


どこか計算され尽くしていながらも、過剰な演出にはならず、家具そのものの存在感を引き立てる構成だったように思います。


五分の一スケールのプロトタイプ


展示の中でも特に印象に残ったのが、家具モデラー・濱田由一氏による、ウェグナーの椅子の五分の一スケールモデルです。


ウェグナーは、椅子をデザインする際、実寸の前にこの五分の一スケールの精密な模型を制作し、空間の中での見え方、佇まい、関係性、座り心地までも検証していたといいます。


模型は小さいながらも、一切の妥協を感じさせない精巧さでした。


その姿は、近年の日本のカプセルトイ文化を思わせるような、「小さなものを愛でる感覚」にもどこか通じており、非常に目に美しい存在でした。


名作椅子の舞台裏


また、名作椅子の「舞台裏」に光を当てる展示として、20点余りの原寸図面やワーキングモデル(製作途中の試作)が紹介されていた点も、本展の重要な見どころでした。


完成された椅子の美しさの背後には、線一本、曲線の角度ひとつに至るまで、引き直しと修正を重ねる試行錯誤のプロセスが存在していたことが、図面や模型から読み取れます。


それらは、即興的なデザインではなく、思考によって形が掴み取られていく過程の痕跡でした。


構造体としての椅子


ワーキングモデルでは、最終形では見えなくなる接合部や内部構造が露わになり、椅子が単なる造形物ではなく、高度に設計された構造体であることを実感させます。


美しさは目的ではなく結果であり、その前段階には、素材理解、身体感覚への想像力、空間との関係性を読み取る理性的なプロセスが存在していました。


「ザ・チェア」に座る体験


展示の最後には、実際に椅子に座ることのできるスペースが設けられていました。


私が腰掛けたのは、ウェグナーの代表作のひとつである「ザ・チェア」。


滑らかな木の質感

身体をやさしく受け止める座り心地。


そこには、素材そのものが持つ温かさと、長い時間をかけて使われることを前提とした設計思想が確かに感じられました。


丁寧に作られた家具は、完成した瞬間がゴールではありません。


使う人の手によって手入れされ、時間を重ねることで、その人自身の「もの」になっていく。


椅子という物質には、そうしたもう一つの役割が与えられているのだと改めて思いました。


「家具に裏面があってはならない」

本展で強く心に残った言葉があります。それはウェグナーの次の言葉です。


「家具に裏面があってはならない。どこが始まりでどこが終わりか分かるようではいけません。あらゆる角度から観察され、そのどの側面からでも視線に耐えられるものでなくてはならないのです。」

この言葉は、単なる造形上の美しさを超えた、彼の哲学そのものだと感じました。


人から見られる部分だけでなく、普段は目に触れない場所にも美しさを宿すこと。


それはクラフツマンシップという思想の核心でもあるのでしょう。


家具は展示物ではなく、生活の中で使われ、触れられ、回り込まれる存在です。


だからこそ、どこから見ても破綻しないことが求められる。


その姿勢は、私たち自身の生き方や、制作における態度にも重なって見えました。



光によって際立つ椅子


会場では、照明を極限まで落とし、椅子一脚だけを円形の台に置き、上から絞った光を当てる展示もありました。


闇の中で浮かび上がる椅子の輪郭と、その影。


そこには、人工的でありながら、どこか自然の造形美を思わせる静けさがありました。


椅子が「使われるもの」であると同時に、「見られる造形」であることを、あらためて認識させられる展示でした。


観る人が参加する余白


会場出口には、大きなパネルが設置され、来場者が感想を書き残せる仕掛けが用意されていました。


色の異なる付箋には、それぞれ問いが添えられており、観る側が言葉を通して展覧会に参加できる構造になっていました。


展覧会を「受け取る」だけでなく、「返す」場所が用意されていること。


その設計自体も、非常に丁寧なものだと感じました。



おわりに


どんな展覧会でも共通して言えることですが、実際に足を運び、空間構成や展示方法、視線の誘導や余白を身体で体験することには、代えがたい価値があります。


無理をしてでも観に行くことで、作品そのものだけでなく、展示という行為そのものから学べることが、確かに存在します。


今回のハンス・ウェグナー展は、椅子を通して、「美しさとは何か」「生活とデザインはどう結びつくのか」を静かに問いかけてくる展覧会でした。


織田コレクション ハンス・ウェグナー 至高のクラフツマンシップ展

2025/12/2(火)~2026/1/18(日)

ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)

開館時間10:00ー19:00

観覧料:一般2,300円

💬どこから見ても美しい──ハンス・ウェグナー展と展示空間の思想。


Megumi Karasawa "portrait"展
Megumi Karasawa "portrait"展

🆕【2026展示のお知らせ】

Megumi Karasawa "portrait"

会期:2026年2月21日(土)、22日(日)、23日(月・祝)

会場:本のある蔵 糀屋 〒343-0818 埼玉県越谷市越ヶ谷本町3-29

時間:2月21日(金):13:00〜17:00|2月22日(土)2月23日(日・祝):10:30〜17:00

観覧:無料


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