2026展覧会レポート#05|総合開館30周年記念作家の現在 これまでとこれから
- 1月20日
- 読了時間: 4分
更新日:1月29日
📍いつもブログを読んでくれてありがとうございます。
某日、東京都写真美術館で開催されていた企画展「遠い窓へ」と同時開催の「総合開館30周年 作家の現在 これまでとこれから」を鑑賞しました。
2つの展示は対照的でありながら、互いを強く照らし合う関係にありました。
💬「遠い窓へ」鑑賞レポートはこちら。

「遠い窓へ」が、写真を“見るための距離”として提示する展覧会だとすれば、「作家の現在」は、写真を“触れてしまう現実”として観客の前に突きつける展示でした。
穏やかな風景を覗き込む窓と、傷口を露わにする皮膚。
その二つが同じ館内に存在していること自体が、写真というメディアの二重性を示しているように思えました。
写真美術館が選んだ5人の意味
「作家の現在」展では、石内都、志賀理江子、金村修、藤岡亜弥、川田喜多治という5名の写真家が取り上げられています。
これは世代や作風のバリエーションではなく、むしろこの5人は、「日本社会と写真の関係」を異なる角度から引き受けてきた存在だと読み取ることができます。
石内都:身体と戦後日本の記憶
志賀理江子:災害と写真の倫理
金村修:写真の物質性と反アーカイブ
藤岡亜弥:時間と記憶の私的な編纂
川田喜多治:日本と世界の視線の往復
この構成は、東京都写真美術館が30年間で育ててきた「写真とは何か」という問いの縮図のようです。
石内都 ― 写真が触れてしまう「他人の人生」
最初の展示室で迎えるのは石内都の作品。
戦時中に人々が身につけていた衣服や靴を拡大して撮影した彼女の写真は、モノの記録ではなく、そこに染みついた時間と身体の痕跡を暴き出します。
布のシワや擦り切れは、その人の生き方そのもののように見えます。
ここで写真は、見ることではなく、触れてしまうことに近い行為となっています。
志賀理江子 ― 災害後を撮るという暴力
続く志賀理江子さんの作品は、東日本大震災後の東北を舞台にしてます。
彼女の写真はしばしば、暴力的とすら感じます。
破壊された風景や人の気配は、見る者の感情を強く引き裂く。
しかし、その激しさこそが、「撮ること」の倫理を問い続けます。
悲劇のあとにカメラを向けるとはどういうことなのか。
その問いが、写真そのものの輪郭を揺さぶります。
金村修 ― 写真は「完成」しない
金村修さんの展示は、写真の概念を根本から崩す。
印画紙を画鋲で留め、耳を切らず、制作途中のような状態で提示するその方法は、「写真=完成されたイメージ」という前提を拒否します。
モノクロの都市風景、直線的な構造、ポラロイドや雑誌の切り抜き、手描きのペン画が混在するコラージュは、世界がいかに断片的で不安定かを示します。
藤岡亜弥 ― 時間を積み重ねる写真
藤岡亜弥さんは、広島の原爆ドームを定点観測するように撮り続けています。
だが彼女の写真は、報道や記録というよりも、日常のスナップに近い。
人々の後ろ姿や何気ない風景が、時間の層として重なり、写真が「歴史を編む行為」であることを静かに示します。
川田喜多治 ― コロナ禍がSFになるとき
川田喜多治さんの作品には、コロナ禍の日本の風景を写します。
マスク姿で街を歩く人々、信号待ちをする群衆。
それは、いま見るとまるでSF映画のワンシーンのように異様。
私たちはあの時間を「過去」として処理しつつあるが、写真はそれを「異様な現在」として保存します。
写真とは、時間を冷凍するメディアなのだという事実を、川田の作品は突きつけます。
写真に流れるマグマ
この展覧会全体に流れていたのは、怒り、痛み、記憶、暴力、時間といった、簡単には処理できないエネルギーでした。
それはまるでマグマのように、写真の表面の下でうごめいています。
「遠い窓へ」が距離を置き、額縁(窓)越しに世界を構成する、ある種「調和的・詩的」な世界だとすれば、
「作家の現在」展は、私たちの手にそのマグマを押し付けてくる展示でしした。
世界との距離をゼロにし、被写体に肉薄し、時に世界と衝突する「当事者の視点」です。
作家たちが現在進行形で切り拓いている「戦場」へと足を踏み入れることになるのです。
今この瞬間、世界をどう解釈し、どう生きていくか。
それこそが、この30周年記念展が観客に投げかけている最大の問いなのではないでしょうか。
2025年10月15日(水)~2026年1月25日(日)
東京都写真美術館
開館時間10:00ー18:00
観覧料:一般700円
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