2026展覧会レポート#39|チュルリョーニス展 内なる星図|@国立西洋美術館
- 5月28日
- 読了時間: 7分
更新日:5月29日
📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
開催前から、その聞き慣れない芸術家の名前と作品が醸し出す「祭壇の神秘的な雰囲気」が気になっていた展覧会。6月14日の閉幕を前に、先日いよいよ見に行ってきました。
「リトアニアという国について、何か知っていることを挙げてみて?」と言われても、国旗も場所もすぐには思い浮かばない。わたしにとって、それくらい遠いのか近いのかもわからない国でした。もちろん、その国の芸術家についても。
今回、初めてその作品に触れたのが、リトアニアを代表する芸術家、ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875–1911)です。
チュルリョーニスとは?
わずか35歳という若さで世を去った、リトアニアの国民的芸術家。もともとは才能あふれる作曲家としてキャリアをスタートさせ、後に美術の道へと進みました。音を視覚化し、絵画を音楽的に構成しようとした「視覚音楽」の先駆者であり、世紀末の象徴主義や抽象絵画の先駆けとしても高く評価されています。
35年ぶりの回顧展
手のひらサイズの作品に宿る密度
祖国リトアニアでの生誕150周年の祝賀ムードを引き継ぎ、日本では実に34年ぶりとなる今回の回顧展。会場の国立西洋美術館には、約80点の作品が並んでいました。
作品数としてはじっくり回るのに丁度いいボリュームです。ただ、大きなサイズの作品が1点ほどだったため、最初は少しインパクトに欠ける印象を受けるかもしれません。
チュルリョーニスは音楽大学を卒業後、念願だったワルシャワの美術大学に入学して版画やテンペラを学びましたが、わずか5年間という短い制作期間に300点もの作品を残しました。その多くが紙にテンペラで描かれた、手に届く範囲のサイズ。ギャラリーの個展でよく見かけるような、部屋に飾るのに手頃なサイズ感の作品が中心です。
しかし、ひとたび作品と向き合うと、その小さな画面の中の不思議な世界に圧倒されます。会場にエンドレスで流れる、彼が作曲した音楽(冒頭の3分間)。それに耳を傾けながら観る絵画は、おとぎ話のような幻想的なインスピレーション、そして神秘的な秘密を孕んだ象徴主義の世界でした。
感情の衝動ではない、音楽の論理を応用した「絵画のポリフォニー」
何より興味深かったのは、音楽(聴覚)と絵画( there/視覚)の融合が、単なる感情の衝動ではなく、非常に「論理的」に組み立てられている点です。
素材である紙の目(きっと細目でしょう)を活かしながら、天(空)を上から下に向かって一段ずつ、微妙に色を変えながらグラデーションさせていく諧調。そして、画面を平行線状に区切りながら、場面を上に積み上げていく構成。これらはまさに、音楽の構造を絵画に応用した痕跡ではないでしょうか。
その多層的な構成は、音楽における対位的・流動的な響き、いわゆる「多音声楽(ポリフォニー)」を画面の上に生み出しているようでした。
視覚や聴覚の芸術は、時としてパッションや目に見えない感情を衝動的に描き殴ったものと思われがちですが、彼の背景にあるのは、緻密な理論と規則です。
楽譜に見る素顔と、こだわり抜かれた「チラシ」の秘密
会場に展示されていた「海」のための2点の楽譜が、それを物語っていました。
五線譜に丁寧に、丹精込めて書かれた読みやすい音符からは、彼の誠実な性格が伝わってきます。
面白いことに、五線譜のなかに人の横顔が描かれている部分があり、「この顔を見ながら、この音を鳴らせということなのかな?」と想像が膨らみ、楽しくなりました。
手慰みや感情に任せて描いたのではない、チュルリョーニスのもう一つの知的な一面を見た気がします。
今回は会場内での写真撮影も可能でしたが、それ以上に、会場で配布されている見開きのチラシのクオリティが高くて大満足でした。
先ほど挙げた「空の諧調(多層)」や紙の目がはっきりと分かるほど再現性が高く、彼の技法がよく伝わってきます。興味のある方は、ぜひチラシに掲載されている《リトアニアの墓地》の質感をじっくり見てみてください。
鑑賞を終えて
遠い国リトアニアが、わたしの中で繋がる瞬間
美術展を見おえたあと、いま読んでいる短編集アンソニー・ドーア著『メモリーウォール』に収録されている「ネメシス川」という話の舞台がリトアニアだったことに驚きました。
国旗も場所も知らなかった国ですが、これを機に、もっと調べてみたいという興味が湧いています。
国立西洋美術館という大きな空間の規模には、もしかしたら収まりきらないような(会場が広すぎるという点で)、内私的でありながら宇宙的な広がりを持つ作品たち。
これがもし、ひっそりとしたプライベートな個人美術館だったら、また違った見え方をしたのかもしれないな、ともふと頭をかすめました。
それでも、「絵画にはこんな表現もできるのだ」と深く感動させられた、5月の某日。
心に浮かんだキーワードは「冬」と「光」。
そこには、限りない唯一無二の光があり、それに出会えたことが心から美しいと感じられる素晴らしい時間になりました。
【チュルリョーニス展 内なる星図】
会期:2026年3月28日[土]-6月14日[日]
会場:国立西洋美術館
開館時間:9:30~17:30(毎週金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
入場料:2,200円
🪞開催概要・会場構成・出品作品リスト(主要作品)
♦開催概要
項目 | 内容 |
展覧会名 | チュルリョーニス展 内なる星図 |
英題 | Mikalojus Konstantinas Čiurlionis: The Inner Constellation |
会期 | 2026年3月28日(土)〜 6月14日(日) |
会場 | 国立西洋美術館 企画展示室 B2F |
所在地 | 東京都台東区上野公園7-7 |
開館時間 | 9:30〜17:30(金・土曜日は20:00まで)※入館は閉館30分前まで |
休館日 | 月曜日(3月30日・5月4日は開館)、5月7日(木) |
観覧料 | 一般 2,200円 / 大学生 1,300円 / 高校生 1,000円(中学生以下無料) |
出品点数 | 絵画・グラフィック作品 約82点 |
担当学芸員 | 朝倉南(国立西洋美術館研究員) |
協力 | 国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス、リトアニア) |
問い合わせ | ハローダイヤル TEL:050-5541-8600 |
♦展覧会について
リトアニアを代表する芸術家ミカロユス・コンスタンティナス・チュルリョーニス(1875–1911)の、日本では34年ぶりとなる大回顧展。祖国リトアニアにおける生誕150周年(2025年)の祝賀ムードを引き継いで開催され、現存する作品の大部分を所蔵する国立M. K. チュルリョーニス美術館(カウナス)の全面協力のもと、厳選された約82点が来日した。謎に包まれた代表作《レックス(王)》をはじめ、《祭壇》など日本初公開の作品を複数含む。
♦ 会場構成
展示はプロローグ・全3章・エピローグで構成され、チュルリョーニスの短くも濃密な画業の軌跡を辿る。展示室(B2F)にはチュルリョーニス自身が作曲した音楽が流れ、視覚と聴覚の両面から作品世界に没入できる演出が施されている。
プロローグ|画業の出発点
第1章|自然のリズム
第2章|交響する絵画
第3章|リトアニアに捧げるファンタジー
エピローグ|《レックス(王)》
♦出品作品リスト(主要作品)
プロローグ
No. | 作品名 | 制作年 | 技法・素材 |
1 | 森の囁き | 1904年 | 油彩 / カンヴァス |
2 | 弟ポヴィラスに宛てた絵葉書(森の囁き) | 1903年 | 紙にインク |
第1章|自然のリズム
No. | 作品名 | 制作年 | 技法・素材 |
3 | 山 | 1906年 | テンペラ / 紙 |
4 | 霧 | 1906年 | テンペラ / 紙 |
5 | 夜の海 | 1906年 | テンペラ / 紙 |
6 | 閃光 Ⅰ [3点の連作より] | 1906年 | テンペラ / 紙 |
7 | 閃光 Ⅱ [3点の連作より] | 1906年 | テンペラ / 紙 |
8 | 閃光 Ⅲ [3点の連作より] | 1906年 | テンペラ / 紙 |
9 | 冬 Ⅰ [8点の連作より] | 1907年 | テンペラ / 紙 |
第2章|交響する絵画
No. | 作品名 | 制作年 | 技法・素材 |
10 | プレリュード [二連画「プレリュード、フーガ」より] | 1908年 | テンペラ / 紙 |
11 | フーガ [二連画「プレリュード、フーガ」より] | 1908年 | テンペラ / 紙 |
12 | 第5ソナタ(海のソナタ):アレグロ | 1908年 | テンペラ / 紙 |
13 | 第5ソナタ(海のソナタ):アンダンテ | 1908年 | テンペラ / 紙 |
14 | 第5ソナタ(海のソナタ):スケルツォ | 1908年 | テンペラ / 紙 |
15 | 第5ソナタ(海のソナタ):フィナーレ | 1908年 | テンペラ / 紙 |
16 | 自筆楽譜(リトアニア民謡「走れ、刈り上げの列よ」のためのヴィネット) | 1909年 | 紙にインク |
第3章|リトアニアに捧げるファンタジー
No. | 作品名 | 制作年 | 技法・素材 |
17 | おとぎ話(王たちのおとぎ話) | 1909年 | テンペラ / カンヴァス |
18 | リトアニアの墓地 | 1909年 | テンペラ / 厚紙 |
19 | 祭壇 ★ | 1909年 | テンペラ / 厚紙 |
エピローグ
No. | 作品名 | 制作年 | 技法・素材 |
20 | レックス(王)★ | 1904–1909年頃 | テンペラ / 厚紙 |
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