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2026展覧会レポート#02|総合開館30周年記念 遠い窓へ 日本の新進作家 vol. 22

  • 1月10日
  • 読了時間: 5分

更新日:1月29日

📍いつもブログを読んでくれてありがとうございます。


一段と強い寒気が続いています。


じっとしているよりも、身体のスイッチを入れたくなり、某日、展覧会を観に行ってきました。


向かったのは東京都写真美術館で開催中の


「総合開館30周年記念 日本の新進作家 vol.22 遠い窓」展です。


💬1月中に足を運びたい4展をピックアップ。


東京都写真美術館で開催中の「日本の新進作家 vol.22 遠い窓」を鑑賞。写真とインスタレーションが描く不在と記憶、喪失の感触を静かに読み解く展覧会レポート。
2026年|「総合開館30周年記念 遠い窓へ 日本の新進作家 vol. 22」展|東京都写真美術館

本展の主旨は、


「人と時代の流れ、場所、風習といった物事の結びつきから生まれる小さな物語に焦点をあてること」
「窓とは、今ここにいる私たちを遠く離れた世界へ導く装置であり、知らない風景や物語へ思いを巡らせるきっかけを与えてくれるもの」

というものでした。


会場を通して感じたのは、派手な物語ではなく、誰かの不在や面影、気配といった、極めて個人的で小さな喪失が、静かにすくい上げられていく構成です。


私たちの日常にあるささやかな営みが、やがて大きな世界の流れの中で飲み込まれていく。


その過程で失われてしまうものを、この展覧会はひとつひとつ拾い上げているように感じられました。


この「遠い窓」というテーマは、単に遠くを見ることではなく、私たちのすぐ隣にありながら、もう触れることのできない時間や人、場所を覗き込む行為を意味しているのだと思います。


その視点が、この後に続く各作家の作品を静かに貫いていました。



寺田健人 ― 不在を子どもの目線で見る


最初の展示室は寺田健人さんの作品でした。


そこには「いないはずの家族」を写した写真が展示されていました。


特に気になったのは、その展示の高さです。


床からおよそ100〜110センチほど。


小学校低学年や幼稚園の子どもの目線に近い高さに作品が掛けられていました。


成人が見ると自然に見下ろす位置になりますが、車椅子で来館していた高齢の方にとっては、ちょうど目線の高さに揃っていました。


これは必ずしも作者が意図したものではないかもしれませんが、この「低さ」は、この作品が向けているまなざし――小さな声、かすかな存在感、ささやかな喜びや悲しみ――を象徴しているように感じられました。


そこに写っているのは、もはや「そこにいない人」たちです。


その不在を、大人の目線ではなく、記憶の中のその目線の高さから見つめ直す”誰か”という展示構成そのものが、喪失を暴くのではなく、そっと抱え直す行為のように思えました。



スクリプカリウ落合安奈 ― ひかりのうつわ。としての記憶


次の展示室は一転して、真っ暗な空間でした。


スクリプカリウの落合安奈さんの作品は、五枚のパネルスクリーンに、ルーマニア滞在中に撮影された写真がランダムに映し出されるインスタレーション形式です。


中央には日本語と英語で綴られた短い詩のようなテキストが表示され、その言葉に合わせて映像が切り替わります。


写真が切り替わるときのカシャッという音が、妙に大きく響くのが印象的でした。


ヤギの鼻先に当たる光、産毛、踊る人々の衣装、風景。


それらは「ひかりのうつわ」というテーマのもとに集められ、写真でありながら映画のように時間の中を流れていきます。


写真が一枚の「記録」ではなく、二つの異なる文化の狭間で、自分の身体で感じる生き物としての本能に矢を射るような鑑賞体験でした。



甫木元空 ― 母と過ごした時間


甫木元空さんの作品は、母親と過ごした四年間の記録を、時系列で展示したものでした。


一つのフレームに二枚ずつ写真が収められ、日常の何気ない風景が淡々と並びます。


やがて母親が亡くなる最後の時間へと進んでいきますが、それでも写真は特別な出来事を強調しません。


むしろ、いつもと変わらない日々が続いているように見えます。


それは「死の記録」ではなく、死に向かってなお続いていく生活の重さと愛情の記録であり、観る側に自分の家族の時間を重ねさせる静かな力を持っていました。



岡ともみ ― 逆回転する時間の部屋


岡ともみさんの作品は、照明を落とした空間に十二台の柱時計を設置したインスタレーションでした。


すべての時計は逆回転し、文字盤も反転しています。


この部屋に入ると、私たちが普段生きている時間とは異なる流れを感じます。


生きている私たちの時間軸から死者の時間へと重なり合うような感覚。


「もう戻らないもの」と「いまここにあるもの」の境界を曖昧なものにするような、浮遊するような感覚に陥りました。



呉夏枝 ― 織られた記憶の風景


呉夏枝さんの作品は、写真というよりも空間全体を使ったインスタレーションでした。


自らの手で織り上げた布に、かつてのオーストラリア移民の記憶と、現在のマングローブの風景をサイアノタイプで写し取り、それらを糸に吊るして展示しています。


まるで洗濯物を干すように布が並ぶその光景は、語られざる歴史や、忘れられた記憧が、壁面に投影された太平洋の地図を背景に、所々にスポットライトが当たるうす暗い部屋に微動もせずそこに存在していました。


それは個人の記憶であると同時に、この「遠い窓」という展覧会が問いかける、見えない歴史と現在をつなぐまなざしそのものでした。



「遠い窓」が映し返すもの


この展覧会を通して感じたのは、遠く離れた出来事や他者の物語ではなく、私たちのすぐそばにある不在と時間に、そっと光を当てる試みでした。


「遠い窓」は、遠くを見るための装置であると同時に、私たち自身の記憶と喪失を、静かに映し返す鏡でもあったように思います。


【総合開館30周年記念 遠い窓へ 日本の新進作家 vol. 22】

2025年9月30日(火)~2026年1月7日(水)

東京都写真美術館

開館時間10:00ー18:00

観覧料:一般700円



BASEでは2026年カレンダーを始め、ポストカードやドローイング作品を取り扱っています。是非一度ご覧になってみてくださいね。


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