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2026展覧会レポート#01|”上野アーティストプロジェクト2025刺繍―針がすくいだす世界”

  • 1月7日
  • 読了時間: 5分

更新日:1月29日

📍いつもブログを読んでくれてありがとうございます。


某日、上野都美術館で開催されている「刺繍 ― 針がすくいだす世界」展を観に行ってきました。


会期は1月8日までということで、新年早々の美術館巡りです。

少しウキウキとした気持ちで足を運びました。


会場は1階と地下に分かれており、チケット購入の列、入場待ちの列ともに混雑していました。


年始の展覧会として、多くの来場者が関心を寄せている様子がうかがえました。


💬1月中に足を運びたい4展。


上野都美術館「刺繍―針がすくいだす世界」を鑑賞。針と糸という行為が生む時間、身体性、作家の内面に触れながら、岡田美佳・伏木庸平の作品を中心に静かに考察します。
2026年1月|上野アーティストプロジェクト2025刺繍―針がすくいだす世界展|東京都美術館

重石のように残る余韻


この展覧会を観終えたあと、私の中には、小さくはない石が腹の底にストンと底なしの穴に落ちていくような感覚が残りました。


派手な衝撃ではありませんが、確かな重さをもって後を引く余韻があります。


その理由のひとつには、いま私自身が読んでいる『アウシュビッツのお針子』という本の存在、そして現在取り組んでいる「針と糸で紙を縫う」という制作行為が重なっていたことがあります。


刺繍、読書体験、そして身体を使った制作。


その三つが絡み合い、普段よりも複雑な層で鑑賞していたのかもしれません。


強く印象に残った二人の作家


今回の展示のなかで、特に印象に残ったのは、岡田美佳(1969–)さんと伏木庸平(1985–)さんの作品でした。


💬鑑賞前に読み進めていた本。



岡田美佳さんの刺繍作品

言葉の代わりとしての針と糸


岡田さんのプロフィールによると、他者とのコミュニケーションを困難とする作家で、口から発する会話はほとんどなく、日記を書くように針と糸を使って刺繍を続けていると記されています。


いつかどこかで目にし、記憶した風景や事物を、自由なステッチによって画面上に立ち上げていく。

その行為は、外界と自分自身を媒介し、接点をつなぎ合わせるためのものだと感じました。


会場に並ぶ作品は、非常に密度の高い刺繍で、糸の盛り上がりが画面の断面としてはっきりと現れていました。


食卓や食べ物をモチーフにした作品は鮮やかでカラフルで、どこか夢の中や絵本の世界を思わせます。


それらは額装され、ひとつの「絵」として展示されていました。


制作に潜む、意味の外側の時間


作者の背景を知ったうえで作品を見ると、これらの刺繍一針一針に、言葉や会話の代替としての意味が込められているように感じられます。


しかし同時に、それだけではない何かが糸の中にあるようにも思えました。


私自身、針と糸の仕事に没入するとき、それは現実から別の層へ移動するためのスイッチのような感覚があります。


ただただ縫う時間。

一針一針を進める時間を記録し、流れていく時間を刺し止める。


その行為は、何かを克服するためというより、それらすら忘れてしまうほどの集中の時間です。


そのような「意味の外側にある集中の時間」もまた、岡田さんの制作の中に存在しているのかもしれません。


それは外部から断定できるものではなく、作家自身の制作世界を形づくるものだからです。



伏木庸平さんの作品

「ひとり狂う時間」としての刺繍


もう一人、強く心に残ったのが伏木庸平さんの作品です。


ステートメントには、針を刺す行為を


「遅さとズレの中で自分の奥に潜り、ひとり狂う時間」と表現していました。


寝食とともに針を刺し続ける生活。

食事中に、会話中に、針を刺す。


生活そのものが制作になるというあり方から生まれた作品は、生き物のようでもあり、臓器のようでもある、不思議な立体物でした。


それらは「何かになること」を拒んでいるようでありながら、「何かになりつつある途中経過」のようにも見えます。


無定形な立体と、自然物としての布


伏木さんの作品は、額装されることを前提としていません。


サイズや形式を拒むような無定形の立体物は、表と裏の区別が曖昧で、どちらも表裏一体としていました。


展示方法も印象的でした。


鉄のワイヤーで作品を吊り、石を重しとして一本の鉄の棒で支える。


その姿は、洋服掛けや帽子掛けを思わせます。


緩やかな鉄のカーブ、不揃いな石、布。


これらの素材の組み合わせから、作家が手縫いの布を「自然界の物質」として捉えている意志を強く感じました。


それは、ぬいぐるみや布人形のような空気を含んだ柔らかさという側面の布ではなく、密度の高い、詰まった、固さと柔らかさを循環する存在。


「もうひとつの自然物」をつくろうとしているのではないでしょうか。


針と糸がすくいだす複数の世界


針と糸という極めて原初的で個人的な行為が、これほどまでに異なる世界観と物質性を生み出す。


そのことを、身体感覚をともなって考えさせられる展覧会でした。


新年最初の展覧会として確かに残る、とても良い鑑賞体験でした。


【上野アーティストプロジェクト2025刺繍―針がすくいだす世界

2025年11月18日(水)~2026年1月8日(火)

上野都美術館

開館時間9:30ー17:30

観覧料:一般800円


💬手仕事、手縫いの「念」のこもった熱量は高く狂気と共にある。


💬同会場で同時開催、こちらの展示も感銘を受けました。




BASEでは2026年カレンダーを始め、ポストカードやドローイング作品を取り扱っています。是非一度ご覧になってみてくださいね。


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