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2026展覧会レポート#63|杉本博司 絶滅写真@東京国立近代美術館

9月11日
読了時間: 8分

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


この展覧会を見に行く前に放映していた日曜美術館をみました。杉本本人のお話しを聞いたり、作品の一部を見ました。実際に作品を見に行くと、静けさの強度や圧倒的な時間の蓄積と重み、杉本の堅い意志とブレない姿勢は想像以上でした。


2005年の森美術館「杉本博司:時間の終わり」以来21年ぶりとなります。

国立近代美術館「杉本博司 絶滅写真」は今週日曜日13日(日)までです。


💬見に行く前に見どころをまとめています。


東京国立近代美術館「杉本博司 絶滅写真」展レポート。《海景》と《建築》、二つのフロアから見えてきた"遺影"というもうひとつの視点を綴ります。
2026年6月16日(火)~9月13日(日)|「杉本博司 絶滅写真」|国立近代美術館

暗室のような会場構成


会場構成は、作品サイズも十分な大きさで見やすくと出品数のわりにゆとりを感じさせる配置となっていました。近代美術館のこれまでの展示と比較してもゆったりと広々しているように感じました。照明を落とした、究極的に写真のみを見せる暗室のような空間では、余計なものは目に入りません。闇で覆い対象物しか見せないというこだわり。鑑賞者の集中を切らさず、作品に没入させることを否応なく促します。さらにキャプション。杉本の制作意図を書いたもの、素頓狂(杉本本人)による一句も添えられていて、作品の滞在時間を伸ばすような工夫?もありました。


今年写真展を訪れるのは、本展で5つ目です。杉本博司展はその中でも特異というか、写真に対する捉え方や思想が全くの孤島だと感じます。杉本の写真は、生きていたものを生きているように見せ『遺影』のように静止させる装置なのかもしれません。

作者自身は現代にあっても修行僧のように、ひとつの道を極めんとする一貫した姿勢で取り組んでいます。それは精神性と結びつけたくなるものです。


本展は大きく3章で構成されています。そのどれもが我を忘れて見入ってしまうばかりでした。その中でも、ちょうど会場の中間にある二つのフロア(《海景》と《建築》)が気になりました。最後の章では、難しさもありましたが内省的な作品となっています。



《海景》《建築》《絶滅写真》をめぐって


実線を――《海景》

「1章 時間・光・記憶」のなかのひとつ〈海景〉シリーズは湾曲した壁面に沿って、7つの海を撮影した作品を展示しています。入り口にあるのは《カリブ海、ジャマイカ》。その隣に行くほど海と空の境界はぼやけていき、ちょうど中央の作品《スペリオル湖、カスケード川》では、その境界線がゼロになるくらい、辛うじて違うトーンの白い色で上下(海と空)が見分けられるところまでになってしまう。それを境に目を隣に移動すると境界はぼやけながらも復活し、最後の作品《相模湾、江之浦》ではくっきりと白と黒にわかれます。

そして空は黒く、海は白となり、色彩は反転しています。


この作品をみていると、一本の長い線を引きたかったのではないかとさえ思います。地平線という、本来どこにもない幻の線を引いてみる。本来空と海の境界は、実線には現れないものです。もうひとつの見方は、これは共同主観的な作品だということです。杉本は作品リストの中でこう記しています。「原始人が見ていた風景を、現代人も同じように見ることは可能か」と、自らに問うています。



裸眼と遺影――《建築》

《建築》シリーズは「2章 観念の形」にあります。ぼやけた写真が並ぶフロアです。杉本は「焦点をぼかすことによって建築家の脳内ビジョンが再現できるのではないか」と考えたといいます。ピントが合っておらず建築のディテールはよくわからないけれど、何か象徴的な外観をしていることだけは捉えられています。

わたしは普段メガネをかけているのですが、この作品は思わずメガネを外して見ました。元々ぼやけていたものがさらにぼやけ、裸眼が映したのは古い遺影のようでした。そして誰かの眼をとおしてピントを外された写真を見るよりも、より作品が近寄ってくるような気がして、あれは一体なんだったのだろうかと思います。


「写真家の撮った作品を裸眼でみると?」——杉本が自問自答するように、わたしも自分に問うてみました。



床に反映した色彩と陰影礼賛ー《絶滅写真》

最後のフロア「3章 絶滅写真」は、これまですべてモノクロ作品だったのを一変させるカラーの作品が並びました。17世紀にニュートンが試みたプリズムによる分光実験を再現し、光の色彩を観測した《Optics》。青・黄色・赤の色彩をカラー印画紙にプリントした作品です。この作品の科学的背景は正直わたしには難しく感じました。色彩の根っこを掴んだものだろうか?床に反映した3つの色彩が実物写真を薄めたような、曖昧な色彩になっていました。わたしたちが本当だと認識している虚の色とイメージを見たような、ちょっと嫌な感じがしました。《陰影礼賛》は「蝋燭の一生」を記録した作品です。暗がりの中の蝋燭の光。目の前にそれがそこにあるような、一対一の親密な光りでした。



さいごに


もうあと少し会場を裸眼で見てまわることにしました。機能の低下した視力では、ものごとの輪郭はぼやけ、ディテールは意味を伝えず、感触だけが粒立ちました。わたしが裸眼でみたものは、視力が失われていく肉体的な衰えを感じたことです。

そもそも自分自体が絶滅する存在だということを目の当たりにしました。「みる」ことはそもそも現在地点ではなく、かつて在ったもののこと——遺影か?そんなことを思いました。そして裸眼の目にもピントが合った作品は《フォトジェニック・ドローイング001》でした。このシリーズは、銀塩写真の終焉を惜しみつつ作られた作品のひとつです。

絶滅写真という衝撃的なタイトルは、遺影としてかつて存在したものの現在地を記録する裸眼の眼のことだと、わたしはこの会場の出口を出るころに結論づけていました。



スギモトノート(サテライト展示)


所蔵品ギャラリー3階では、当館所蔵の杉本作品全点とあわせて、「スギモトノート」もサテライト展示されています。これは撮影時や暗室作業の工程を杉本自身が書き留めてきた覚書です。レプリカとしてノートが一冊展示されていて、実際にページをめくれます。記録は1970年代半ばにまで遡るそう。本展で語られる思想や手法の"種"が垣間見える、未公開資料です。



💡あわせて観たい、小企画展


日本の抽象美術を代表する画家・評論家、長谷川三郎(1906–1957)の生誕120周年を記念する展示です。画家・評論家としてだけでなく、これまで注目されてこなかった「キュレーター」としての一面に光を当て、関係作家の作品もあわせて紹介しながら、展覧会企画や旺盛な執筆活動の足跡をたどり、総合的な芸術家像に迫ります。杉本博司展のチケットで当日中に観覧可能です。


会期:2026年6月16日(火)~9月13日(日)

会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー

開館時間:10:00-17:00(金・土曜は10:00-20:00)入館は閉館の30分前まで

入場料:一般2,300円(2,100円)



🪞作家プロフィール・会場構成・主な出品作品

公式サイトとや関連情報をもとにまとめています。


杉本博司(すぎもと・ひろし)1948-

1948年東京生まれ。1970年渡米、1974年よりニューヨークと日本を往復しながら制作を続ける現代美術作家。写真を原点に、建築、舞台芸術の演出、書、陶芸、和歌、料理など多岐にわたる分野で活動。

  • 初期代表作:〈ジオラマ〉〈海景〉〈劇場〉シリーズ

  • 2008年 建築設計事務所「新素材研究所」設立

  • 2009年 公益財団法人小田原文化財団設立

  • 2017年 構想10年をかけた文化施設「江之浦測候所」開設

  • 2019年 演出作『At the Hawk's Well/鷹の井戸』パリ・オペラ座上演

  • 著書:『苔のむすまで』『現な像』『アートの起源』『江之浦奇譚』『影老日記』ほか

  • 受賞歴:2001年ハッセルブラッド国際写真賞、2009年高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)、2010年紫綬褒章、2013年フランス芸術文化勲章オフィシエ

  • 2017年文化功労者選出、2023年日本芸術院会員


写真作品のみで構成する国内美術館個展としては、2005年の森美術館以来の開催。



会場構成(展覧会構成と見どころ)

全3章・全13シリーズで、ゆるやかに時系列を追いながら作品世界の展開をたどる構成。


1章「時間・光・記憶」1970〜80年代に着手され評価を確立した〈ジオラマ〉〈劇場〉〈華厳滝〉〈海景〉で作品世界の始まりを紹介。

2章「観念の形」〈建築〉〈スタイアライズド・スカルプチャー〉〈観念の形〉など90年代末以降のシリーズで、作品世界の拡張・深化を紹介。

3章「絶滅写真」写真術の始原にさかのぼる〈前写真、時間記録装置〉〈フォトジェニック・ドローイング〉〈肖像〉〈放電場〉から近作〈Opticks〉〈陰翳礼讃〉まで6シリーズで、"絶滅"をめぐるヴィジョンを探る章。

デビュー作〈ジオラマ〉には新作《ポコット族》などが加わり、1975年の着想から半世紀を経て初めて完成形が提示される点が大きな見どころ。唯一の立体的な新作《CAMERA MAN》(JINS・SIGMA制作協力の眼鏡型カメラ)も特別出品。



 主な出品リスト(全62点中の代表作)

出品番号

作品名

制作年

シリーズ

1

アビシニアコロブス

1980

ジオラマ

8

ポコット族(新作)

2025

ジオラマ

10

ホモ・エレクトス(新作)

2025

ジオラマ

14

パレス・シアター、ゲーリー

2015

劇場

16

華厳滝

1977

華厳滝

17

カリブ海、ジャマイカ(〈海景〉第一作)

1980

海景

23

相模湾、江之浦(新作)

2025

海景

24

クライスラービル

1997

建築

37

スタイアライズド・スカルプチャー120[クリスチャン・ディオール、Bar 1947](新作)

2025

スタイアライズド・スカルプチャー

38

観念の形 0003

2004

観念の形

45

ヘンリー八世

1999

肖像

56

Opticks 027

2018

Opticks

61

陰翳礼讃 98.0001

1998

陰翳礼讃

CAMERA MAN(プロトタイプ、特別出品)

2026

特別出品

伝寂蓮法師筆 地獄草紙詞書断簡(杉本による描き表装、特別出品)

平安時代/表装2026

特別出品

作品リストの全62点(出品番号・技法・寸法・所蔵先付き)は公式PDFで確認できます。また所蔵品ギャラリー3階では同館所蔵の杉本作品全点と、制作メモ「スギモトノート」がサテライト展示されています。




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