北斎漫画と肉筆画が示す“生のうねり”──「ぜんぶ、北斎の仕業でした展」を訪れて
- 11月20日
- 読了時間: 6分
更新日:23 時間前
📍某日、11月30日まで開催されている「HOUKUSAIー ぜんぶ、北斎の仕業でした展」を観に行ってきました。
鑑賞のきっかけは、少し前に観た映画『おーい!応為』です。
北斎の娘・応為を題材にしたあの映画を通して、北斎という人物の“人間らしさ”と、その裏側にある執念や孤独に興味が湧き、改めて北斎を知りたい気持ちが強くなりました。
🎥葛飾北斎の娘「応為」を描いた映画レビュー

今回の展覧会では、北斎がライフワークとして描き続けた『北斎漫画』(全15編)が中心的に紹介されていました。
しかし「漫画」といっても、現代の私たちが思い浮かべるストーリー漫画ではなく、江戸時代の庶民が楽しみ、弟子たちが学んだ“絵の百科事典”のような存在です。
人物のしぐさ、動物、自然、職人、怪異、そして日常のごく些細な場面まで──「描けるものはすべて描く」。むしろ描けないものはない。という境地。
そんな姿勢のもと、描かれたものたちがぎっしりと詰まっていました。
会期:2025.9.13ー2025.11.30 会場:CREATIVE MUSEUM TOKYO(東京都中央区京橋1-7-1 TODA BUILDING 6F)
「世界に渡った理由」があまりに北斎らしい
会場では、『北斎漫画』がどのようにヨーロッパに渡り、印象派の画家たちに影響を与えたのか、その経緯も紹介されていました。
それがまた、実に北斎らしいのです。
『北斎漫画』は、当時そば一杯と同じくらいの値段で買える“安価な本”でした。
そのため荷物の梱包材に利用されることもあり、破れたページがフランスへと渡ったと言われています。
その“梱包材の紙切れ”を見つけたフランス人が、描かれた絵に驚き、そこから北斎がヨーロッパで脚光を浴びる。
なんという偶然、なんという運命の巡り合わせでしょうか。
また展覧会では、どの印象派の画家がどのモチーフを自作に取り入れたのか、比較パネルとして展示されていました。
モチーフの引用はもちろん、構図の“発想”そのものが、見事に受け継がれている場面もあり、人と時代を超えた創造の連鎖を感じさせるものでした。
🪞コラム:『北斎漫画』は梱包材だった⁉
葛飾北斎の『北斎漫画』が、安価であったために外国の荷物の梱包材や磁器製品の仕切り材として使われ、その絵に価値を見出し、ジャポニズムブームの火付け役となったフランス人は、版画家のフェリックス・ブラックモン(Félix Bracquemond)であるという説が有名です。
人物: フェリックス・ブラックモン (Félix Bracquemond)
時期: 1856年頃
経緯: 彼は、陶磁器の梱包材として使われていた『北斎漫画』を偶然目にし、そのデッサン力や表現力の高さに衝撃を受けました。そして、友人の画家たち(モネ、マネ、ドガなどの印象派の画家たち)に広めたことで、ヨーロッパにおける日本美術ブーム「ジャポニスム」が本格的に広がるきっかけを作ったと言われています。
🪞コラム2:「ジャポニスム」ムーブを加速させた男?
ブラックモンが『北斎漫画』を発見する以前にも、日本の美術品や北斎の作品は、オランダ経由などでヨーロッパに渡っており、すでに一部の西洋人には知られていました(例えば、シーボルトの著書『NIPPON』に『北斎漫画』の挿絵が使われていました)。
しかし、ブラックモンの発見と、彼が印象派の仲間たちに紹介したことが、西洋の芸術家たちの創作活動に大きな影響を与え、「ジャポニスム」というムーブメントを決定的に加速させたと評価されています。
会場に満ちていた“北斎の線の速度”
平日にもかかわらず会場は多くの人で賑わっていました。
来場者の多くは50〜70代以上の方々で、友人同士やご夫婦で訪れている方が多かった印象です。海外からの来場者もちらほら見かけました。
展示を見進めるにつれ、私はある一つの感覚に支配されました。
それは──北斎の線は描いているのではなく、生きている。
ということです。
筆を操るのではなく、呼吸をするように線を出す。
観察しているのではなく、見た瞬間に絵が始まってしまう。
その速度と迷いのなさは、レオナルド・ダ・ヴィンチのスケッチを思わせるものがありました。
そして、北斎の絵は「上手さ」が目的ではありません。
人物を、動物を、自然を、怪異を、生の一瞬を──その都度、丸ごと捉えきろうとする“根源的な衝動”がそこにあります。
特別公開の「肉筆画」が圧倒的だった理由
今回、特別公開されていた北斎の肉筆画を見ることができました。
これは、素行の悪かった孫のために、北斎が毎日一枚ずつ描き続けた絵だそうです。
八十三歳の北斎が、一日一枚のペースで描いたという事実だけでも胸に迫るものがありますが、何よりも驚いたのはその“生々しさ”でした。
木版による『北斎漫画』の線は非常に精巧ですが、やはり肉筆の線には、震え、呼吸、力の入り方、抜け方といった“人間の時間”が宿っています。
紙の上に置かれた黒い線の一滴一滴が、200年前の北斎の息遣いを確かに伝えてくる。
その迫力に目の前が静かに震えるような、そんな体験でした。
「見るための準備」が没入体験を深める
映画『おーい!応為』を先に観ていたことで、私はより深く作品世界に入り込むことができたように思います。
映画で登場した情景や人物像が、展示の絵とリンクし、一つの世界として立ち上がってくる。
絵を観るとき、作品そのものだけではなく、周囲の情報や物語をあらかじめ吸収しておくことが、こんなにも鑑賞体験を豊かにするのかと感じました。
知識や物語が多ければ多いほど、作品と出会った瞬間に“内側で爆発するイメージ”も豊かになる。
そのことを今回あらためて実感しました。
北斎から受け取った「1分1秒の生の密度」
北斎の人生を振り返ると、ジャンルを超え、分野をまたぎ、好奇心のままに描き続け、生き続けた人だったと感じます。
彼の1分1秒は、紙に到底収まり切らないほどの“生のうねり”に満ちていたはずです。
だからこそ、彼の線はあれほどまでに強く、迷いなく、そして自由なのではないでしょうか。
今回300点以上の展示を観終えたとき、体力的にはとても疲れていたのに、心は満たされていました。
自分もまた、日々を丁寧に重ねながら創作を続けていきたい。
そんな静かな決意が胸に残りました。
北斎の作品を、そしてその生き方を深く感じられる展覧会でした。11月30日まで開催されていますので、興味のある方はぜひ足を運んでみてください。
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