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それが聞きたかったよ!|垣谷美雨『あなたの人生、片付けます』、『四十歳、未婚出産』を読んで

  • 4 日前
  • 読了時間: 4分

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


初めて読む著者・垣谷美雨。以前読んだ文庫本の解説を書いていて、その文章が読みやすく面白かったので、著作を手に取りました。ここ最近「食」「お金」「中年期の女性の目線で書かれたリアルな生活」をテーマに読んできたわたしが、今回はこの2冊を選びました。


読了後には「うん、ばっちり」という手応えと、もっと読んでみたいという気持ちがふつふつと湧いてきました。さらに、自分の友人知人やママ友といった見知った人間関係ではない、もう一つの関係を作れたような感覚がありました。物語の登場人物を追ううちに「共感」したからです。


この「共感」って何でしょうね。口に出して言うと憚られるようなキツいことや、秘めていることが物語の中では語られている。「それが聞きたかったよ~」と言えば、手を振り返してくれるような、包容と連帯——今はそういうものだと思っています。



📚汚部屋ならすぐ片付けられますが?

『あなたの人生、片づけます』

著者:垣谷美雨

出版年:2016年

出版社:双葉文庫


タイトルが示す通り「片づけ」をテーマにした4つの物語が入った一冊です。


主人公は50代の女性・大場十萬里(とまり)。依頼を受けて相談者の自宅に赴き、片づけをサポートします。『人生がときめく片づけの魔法』『断捨離』『「捨てる!」技術』といった華々しい片づけ業界からするとパッとしない存在。それもそのはず、十萬里の仕事は汚部屋を片づけることは朝飯前、それが目的ではないからです。


十萬里の片づけは、その人のマインドに響く交通整理を主眼としたものです。

ケース1 「精算」では、会社員の女性が潜在的に見えなくしていた同僚や、不倫相手のつながりに「片づけ」という一種の口実を使いながら信号機を設置します。すると渋滞していた道ー精算したかった自分自身とその人間関係道が動き出します。信号機の設置、迂回、横断歩道で歩行者を待つこと——その一連の整理によって、主人公は軽やかに自分の人生を運転するようになるのです。


ケース4 「きれいすぎる部屋」では、3人の子どもの母親がある出来事をきっかけに部屋が荒み、子どもたちは好き勝手に食事をし、学校の勉強にもついていけなくなります。断ち切れない過去の悲しみと自分の感情に支配され、身体の自由もままならない状態の母に、十萬里は部屋を片づける以外のアプローチをしていきます。


「片づける」という言葉はもともと物をきれいにするだけの言葉ではなく、一方に寄せ、処置し、物事に決着をつけるという意味を持ちます。生身の人間が抱える体と心という部屋には、捨てられないもの・必要なもの・捨てたくないもの・残したいものが詰まっています。その区別と判断を、当たり障りのない他人である十萬里が心理的にサポートしていく。流れはまた滞ることもあります。すっきりした道ばかりではないから、十萬里の仕事は求められ続けます。誰かに求められるという職業が、ここにあります。



📚が、なにか?

『四十歳、未婚出産』

著者:垣谷美雨

出版年:2021年

出版社:幻冬舎文庫


四十歳を目前に、サプライズのようでもハプニングのようでもある妊娠をした主人公・優子。長く旅行代理店に勤め、勤務態度も企画力も評判のいい女性です。しかしこの妊娠は、相手男性に結婚も認知も一切求めず、知らせずに一人で産むことを決意させるものでした。


するとそれまで曇りガラスがかかったような世界が、くっきりと辛辣に目の前に広がり始めます。その世界は閉じられて狭く、息苦しいものでした。人の本音、裏と表、嘘を重ねること、本当を伝えること、働き続けること、実家に戻ること——嫌味、嫉妬、小言、偏見やバイアス。同僚や上司、派遣社員、部下とその恋人。親や兄弟、その家族、離婚や後妻、親戚、従妹、同級生。その誰もが各々の属性から自分の正しさや意見を投げ合います。時としてド正論であり、ど外れでもある。正しさは人の気持ちに沿うことはなく、しかし人の気持ちは誰かの気持ちをスルーします。


子育てと仕事の両立という話題の、ずっと手前からこの物語は始まります。優子は離脱せずに進みます。進むしか方法が、選択がないからです。進むことによって、それにまつわる協力者やアイデアが出てくるところが面白い。


そして最後の最後に、一番関係の浅いある人物が、優子がいちばん聞きたかったことを言ってくれる場面があります。それを読んだとき、わたしの中にあった見えざる偏見を暴かれた気になりました。正しさや中庸の判断を取りがちなわたし自身の存在にも気づかされました。


ちなみに、わたしが興味深いと思ったのは優子の兄・広伸と現在の妻、そしてその子どもの行く末です。



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