柚木沙弥郎「永遠の今」を見て——自己模倣を越えて、表現をひらくということ
- 2025年12月22日
- 読了時間: 7分
📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
年内に見ておきたい展覧会の予定を立てました。
某日、そのひとつとして足を運んだのが展覧会「柚木沙弥郎|永遠の今」でした。
💬年内にどうしても観ておきたい!

今年のうちに見ておきたい展覧会
柚木沙弥郎(ゆのき さみろう)|永遠の今
某日、東京オペラシティアートギャラリーで開催されている柚木沙弥郎展「永遠の今」を見に行ってきました。
会期は12月21日までです。
この展覧会を訪れた理由は、これまで民芸運動やテキスタイル、染色といった分野の作品を、実は一度もきちんと見たことがなかったからです。
お名前は知っていても、実作に触れた経験がない。
その距離を一度、自分の足で確かめてみたいと思いました。
私が会場に着いたのは閉館間際でしたが、それでも多くの来場者がいて、この展覧会への関心の高さが伝わってきました。
💬会期終了を待たずに図録完売😭
「自分自身の模倣になる」という言葉
展示を見ながら、キャプションの中で特に心に残った言葉があります。
1980年代半ば、柚木沙弥郎さんは次のように語っています。
「これ以上同じ仕事を続けることは、自分自身の模倣となり、作るものは抜け殻にすぎない。」
この一文は、とても率直で、そして厳しい言葉だと感じました。
柚木さんは、染色だけにとどまらず、立体、ガラス、版画、絵本、装丁など、実に多彩なジャンルに挑戦し続けています。
1983年頃からは版画制作にも取り組み、2014年まで制作が続けられていたそうです。
リトグラフ、モノタイプ、そして私が初めて目にしたカーボランダムという技法。
紙の上に生まれる物質感は、染色とは異なる手触りを持ちながら、どこか共通する「反転」の感覚を感じさせました。
「90歳、100歳になっても、こうした新しい技法(カーボランダムなど)を
『これ、面白いね!』
と少年のような好奇心で取り入れていたそうです。
伝統的な型染めに留まらず、自分の表現したい『形』や『色』のために、軽やかに手段を選び取る。
その柔軟な姿勢こそが、タイトルの『永遠の今』を表しているのかもしれません。
🪞ブログ最後にコラムあり
染色を越えて広がる「紙の仕事」
会場には染色作品だけでなく、ゴーフラージュ、水彩、布や毛糸を使ったコラージュなど、手仕事的な要素をもつ作品が数多く展示されていました。
皆さんは「ゴーフラ―ジュ」と聞いてピンとくるものがあるでしょうか?
わたしは以前訪れた「野見山暁二」展で一度みたことがありましたが、どのような制作か、はっきりしたことは分からないままでした。
ゴーフラージュとは、フランス語で「型を取る」という意味を持つ技法です。
柚木氏の制作した作品では粘土で作った立体をシリコンで型取りし、内側に紙を貼りつけ立体を抜き取る方法です。
どこか仮面のようでもあり、紙でありながら彫刻的な存在感を放っていました。
染色以外の「紙の仕事」を、型を取り、反転させ、展開していく。
その姿勢は、ジャンルを横断するというよりも、素材や方法の制約に縛られない自由さを感じさせます。
表現は、無尽蔵にひらかれている
展覧会を通して強く感じたのは、表現の広がりは尽きることがないということでした。
どこかで自分自身、頭打ちになっていたりや天井を感じてしまうことは、誰にでもあると思います。
けれど、そこで立ち止まるのではなく、「これは自分自身の模倣になっていないか」と問い直し、思い切って違う方向へ舵を切ること。
その積み重ねが、創作を豊かにしていくのだと、柚木さんの仕事から学びました。
切羽詰まって破壊するような創作ではなく、もっと身近に、もっと純粋に、楽しみながら展開していくこと。
その姿勢そのものが、作品におおらかさと自由さを与えているように見えました。
心に残ったコラージュ作品
今回、特に心に残ったのは布のコラージュ作品でした。
「夜の絵」シリーズ。
そして亡くなる2ヶ月前に制作されたコラージュ。
後者は、マティスの切り絵を思わせるほど、シンプルで大胆な構成でした。
フォルムは生き生きと広がりを持ち、要素は少ないのに、非常に研ぎ澄まされた上品さがあります。
コラージュというと、つい要素を重ねすぎたり、複雑にしすぎてしまうことがあります。
けれど、これほどまでにシンプルでも、十分に強度を持った作品になる。
「ここに、これがあるべきだ」という位置に、自然に形が収まっている感覚は、人の手によるものとは思えないほどでした。
次に行って見たい場所
柚木沙弥郎さんの作品は、日本民藝館などでも多く所蔵・展示されています。
私はまだ日本民藝館を訪れたことがないのですが、この展覧会をきっかけに、来年は新しい美術館にも足を運んでみたいと思いました。
表現を固定せず、自分自身を模倣し続けないこと。
そのために、手を動かし、素材に触れ、未知の方法へ踏み出していくこと。
「永遠の今」というタイトルが示す通り、制作とは常に現在進行形であり続けるものなのだと、静かに背中を押された鑑賞体験でした。
💬日本近代文学館のある駒場公園内にある美術館
🪞【コラム】 柚木沙弥郎が晩年に愛した、「手触り」のある版画技法
染色家として知られる柚木沙弥郎さんですが、晩年は版画(リトグラフや銅版画など)の制作にも情熱を注ぎました。
展覧会「永遠の今」でも見られる、シンプルでありながら深いマチエール(絵肌)を持った作品たち。そこには、柚木さんが面白がって取り組んだ2つの特殊な技法が使われています。
🏜️1. 砂が生み出す、深い闇と温かみ「カーボランダム」
柚木さんの版画に見られる、ざらりとした質感や、吸い込まれるような深い黒や鮮やかな色。これは「カーボランダム(Carborundum)」という技法によるものです。
どんな技法? 本来は「研磨剤」として使われる炭化ケイ素の粉(砂のようなもの)を、接着剤と混ぜて版に塗りつけます。そのザラザラした凹凸にインクを詰め込んで刷る技法です。
柚木作品での魅力 一般的な銅版画(エッチング)が「鋭い線」で表現するのに対し、カーボランダムは「筆のタッチ」や「盛り上がった厚み」をそのまま紙に写し取ることができます。 染色家として布に模様を描いてきた柚木さんにとって、筆の勢いや温かみをそのまま版画にできるこの技法は、まさにうってつけの表現方法でした。あの力強くも温かい形は、この「砂」の粒子が支えているのです。
🎭2. 光と影で描く、色のない版画「ゴーフラージュ」
もうひとつ、作品に不思議な立体感を与えているのが「ゴーフラージュ(Gauffrage)」という技法です。日本語では「空(から)摺り」や「エンボス加工」とも呼ばれます。
どんな技法? 版にインクを付けず、強い圧力をかけて紙をプレスします。すると、版の凹凸に合わせて紙が浮き上がり、「紙そのもののデコボコ」だけで絵柄を表現します。
作品での魅力 インクを使わないため、そこにあるのは「紙の白」と「落ちる影」だけ。ふっくらと紙から浮き上がる様は、まるで彫刻のようです。近づいて見なければ気づかないような静かな技法ですが、作品に物質としての強さと、触れたくなるような質感を加えています。

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