2026展覧会レポート#30|開館50周年記念ウジェーヌ・ブーダン展―瞬間の美学、光の探求@SOMPO美術館
- 4月27日
- 読了時間: 7分
更新日:5月10日
📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
今年の展覧会の流れの起点として
アーティゾン美術館で開催中のモネ展を鑑賞する前に、モネの師と言われるブータンの作品をまず見ておきたいと足を運びました。
今年はモネ展から始まり、ブータン、ゴッホ、印象派からゴッホ、ロートレック、ピカソまでカフェに集まる芸術家たちへと続く展覧会が継続して開催されます。
その流れの最初の入り口として、ブータンから印象派への系譜を鑑賞する予定です。
では早速、SOMPO美術館『開館50周年記念ウジェーヌ・ブーダン展―瞬間の美学、光の探求』へご案内します。
第一会場(5F)|ブータンの原点——海景画と光
ブータンといえば、海景画。
彼の出自や背景に起因する代名詞的なモチーフは第一会場で展開しています。
ウージェーㇴ・ブータンは小さな港町ノルマンディーに生まれ、10歳の時に水夫として経験を積みました。
船乗りの父を見て育ち、天候を読む漁師のまなざし同様に雲の流れや波と光の一瞬を捉える筆致と色彩を獲得しました。
この会場では地平線と海、空の拡がりや帆船というアナログのモチーフと小さな人間の姿を描いた油彩が展示されています。
どれも抜けるような空の色と厚い雲が海辺にわたしたちを誘います。
ブータンは自身の画業の初期を振り返り
「あらゆる手立てを尽くして生計を立てる方法を探さねばならなかった。食堂のための絵、水彩画、風景画、そして最後には何らかの利益をもたらす全てのものを。」
と語っています。そのときヨンキントの海景画の技術を補う形でブータンが選ばれたといい、ヨンキントとの交友もブータンに影響を与えたといいます。
第二会場(4F)|展覧会のハイライト——空・風景・建築・素描
第二会場の4Fは、この展覧会のハイライトになると思ったフロアです。
第一会場の海と光の美しいペールブルーの壁面から一転し、照明を落とした深紅の壁紙で雰囲気は一変しました。この会場は撮影禁止でしたが、思わずカメラを向けたくなるくらい琴線に触れる作品がありました。
Ⅱ 空——「空の王者」と呼ばれた画家
壁面にはブータンに対する著名人の言葉が書かれていました。
コローは「空の王者」といい、クールベは「空を知っているのはあなただけだ」と彼を評しました。
会場でひときわ大きい《干湖》1884年はサロン買い上げになった作品です。
夕陽のオレンジ色と暮れなずむ空の色調の変化を反映する湖と小さな人物。
どこまでも続くような海の拡がりとその奥へ沈む太陽の時刻に尊さを感じる作品です。
その正面に展示されたはがきサイズほどの小品は、パステルで即興的に描いた実験的な作品です。「こんな手の動かし方、色の弾みを研究していたんだ!」と心が躍りました。
この小さな習作の一連
✓《ノルマンディーの海岸》1862-63年
✓《空の習作》制作年不詳
✓《空の習作》1880年(チラシ掲載作品)
✓《トゥーク川のほとり》1881-97年
の並びは必見です。
素描室——印象派が先駆者と仰いだ理由
次のフロアは、賽の目入りの紙に鉛筆で描いた素描ばかりを集めた一室です。
ここにはブータンが弟子ルイ・ブラカヴァルに宛てた言葉が壁面に刻まれています。
素描をしなさい。素描を。絵画で重要なのはそれだけだ。
「これからも素描を続けなさい。草の一本や樹皮にいたるまで、全てを研究し続け緻密で正確な素描を。」
印象派がブータンを先駆者と仰いだ理由のひとつに素描があると言われています。
鉛筆でメモを取るという意図ではなく、感覚的に手を動かす説明的でないものの捉え方や、紙の色そのものを光と捉え黒鉛が影となる。
既に二色の色を使って写真を撮るようにシャッターを切るイメージ。
しかし写真とは異なり、素描でしかできないことを紙に落とし込んでいる。
そのことがよく伝わる作品群です。ここではコローの素描との類似も見出しました。
Ⅲ 風景——得意と不得意のジャンル
ブータン自身は「風景画は難しい」と語っていた通り、海景画に比べるとドラマに欠ける印象がありました。オールマイティなブータンにも得意なジャンルとそうでないジャンルがあるというわけです。
しかし《トルーヴィル街道、ル・ピュタン近郊》1860-1863年と《コルドリーの道、トルーヴィル》1878年を隣同士に並べ筆致を比べる展示では、印象派的な色彩のタッチに変化したことで、絵画がより直観的で視覚から体感する感覚に変わったことが見て取れ、興味深かったです。
Ⅳ 建築——生涯手放さなかったヴェネチア
建築のフロアでは、ブータンのお気に入りの都市ヴェネチアを描いた横長の小ぶりな作品3点が展示されています。生涯手放さなかったといいます。
故郷ノルマンディーに似ていたからでしょうか。それでもヴェネチアの空も光も建築もどこか違う。異国情緒と洗練された風景に、旅の想い出もまた加わっていたのかもしれません。
このフロアで唯一、描きかけのようなラフな作品があります。
《オンフルール・聖カトリーヌ協会の鐘楼》1897年です。
この作品にはクロード・モネが関わっています。作品の横にはモネとブータンの関係を説明するテキストパネルがあります。二人の出会いから、二人が進んだ方向性の違いなど好奇心をそそる内容になっています。
どうぞ会場でキャプションと作品をご覧いただき、その謎をお楽しみください。
第三会場(3F)|もうひとつのブータン
動物・人物・版画
海景画ばかり求められることに不満もあったブータンですが、最後のフロア3Fは3つのパートに分かれています。
初期には人物画や歴史画——《ドゥアルヌネ湾(フィニステール)のサンタンヌ=ラ=パリュのパルドン祭》1858年の大作も描いています。
さらに動物、主に牛を描いていたことは、この展覧会に来なければまず知り得なかったでしょう。彼の生まれたノルマンディーは牛の飼育に適した土地。画業の初期から海辺に牛を描いていたそうです。
美術史の中では馬が多く描かれてきましたが、「馬か牛か」で分かれる作家のタイプを調べてみたら面白そうだな、とふと閃きました。
出口近く、最後は版画と素描です。賽の目入りの紙に鉛筆で描き薄く着彩した海辺の婦人の姿——陰影が美しく、描いていない部分にこそ素描家のまなざしと研ぎ澄まされた感覚の確かさを感じました。
ブータンという人物に出会えた喜び
ブータンは印象派には加わらず、あくまでサロンを主戦場に自分の絵画を追求しました。
17世紀のオランダ絵画やルーブルで毎日模写をしていた修業時代、バルビゾン派との交流、ヨンキントや16歳年下のモネとの交友——そうした人物像もこの展覧会で辿ることができました。
それまで印象派の先駆者としてテキストや資料の中の人物という印象でしたが、ブータンそのひとにスポットライトを当て、人物から作品を見られたのは大きな喜びでした。
SOMPO美術館はそれほど大きな会場ではなく、天井高も壁面も限られています。
それでも各フロアに展示作品の雰囲気を活かした壁面の色、会場什器、布プリントなどを使って鑑賞の工夫が凝らされていました。
作品の横に吹き出しのように付けられた「絵を見るときのヒントや問い」は、小中学生にも作品を楽しんでもらいたいという気持ちが伝わる配慮でした。
この展覧会でブータンその人と作品をしっかりと焼きつけました。ここから彼を師と仰ぎ、別々の道を歩んだモネ展へと続く流れができました。
最後に
ブータンが描こうとしたのは、「瞬間」という一瞬一秒が絶え間なく動き続ける理の中に、「永遠」というサイクルを見出すことだったのかもしれません。
移ろう光と空の青に、繰り返し筆を向け続けたその眼差しは、変わりゆくものの奥にある変わらないものへの問いかけのようでもありました。
※まだ書き足りないことがありますので、近いうちにレポートとは違った文体でもう一度書いてみたいと思います。
【開館50周年記念 ウジェーヌ・ブーダン展——瞬間の美学、光の探求】
会期:2026年4月11日(土)〜6月21日(日)
会場:SOMPO美術館 開館時間:10:00〜18:00(金曜日は〜20:00)※入場は閉館30分前まで
入場料:2,000円
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