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2026展覧会レポート#13|Donald Judd:Design

  • 2月27日
  • 読了時間: 8分

更新日:2月28日

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


某日、新宿伊勢丹本館2階イセタン ザ スペース 「Donald Judd:Design」に足を運びました。


ドナルド・ジャッドというと、わたしが20歳の頃、学んだミニマル・アートを代表する作家の一人で、彫刻家として認識していました。


いまの今まで家具を制作し販売していたと知らずにいました。

今回学生時代の懐かしさを携え、彼の家具と版画作品を観に行ってきました。


ドナルド・ジャッドの家具と版画作品を展覧会で鑑賞。ミニマリズムの思想を体現する家具の特徴、ハンス・ウェグナーとの違い、素材と色への徹底した姿勢、そして20点組の版画作品について考察するレポート。
2026年2月|「Donald Judd:Design」|イセタン ザ スペース

ドナルド・ジャットについて


イセタン ザ スペースのドナルド・ジャッドのプロフィールは、こう記されています。


ドナルド・ジャッド(1928–1994)はミズーリ州エクセルシオールスプリングス出身です。

ジャッドは生涯にわたり批評家・エッセイストとして精力的に執筆し、芸術実践と建築、デザイン、政治的行動、日常生活との関係について論述しました。

作家活動は絵画から始まり、その後立体作品へと転じました。

彼の先鋭的な作品と思想は20世紀後半の美術を形成するうえで重要な役割を果たし、今日も世界中のアーティスト、建築家、デザイナーに影響を与え続けています。

美術作品や実用品の制作・展示・体験・使用される方法に対して変革的な影響を及ぼしました。

主要な展覧会としてはホイットニー美術館(1968 年、1988 年)、ファン・アッベ美術館(1970 年)、カナダ国立美術館(1975 年)、

テート・モダン(2004 年)、ニューヨーク近代美術館(2020 年)などがあります。

ーイセタンザスペース《Donald Judd:Design》より

 


ジャッドの家具の特徴と、ハンス・ウェグナーとの違い


伊勢丹新宿店の会場で、合板の椅子や真鍮のテーブルを前にしたとき、おそらく「座りたい」「触りたい」という気持ちより先に、なんとも言えない緊張感を覚えました。

それはジャッドの家具が、感情に訴えることを拒んでいるからです。

でも、しばらくすると、その無機質さがじわじわと気持ちよくなってくる——そんな鑑賞体験でした。


そしてドナルド・ジャッドの直線的でミニマルな椅子やテーブルを観ながら、先月訪れたハンス・ウェグナー展を思い出しました。


ハンス・ウェグナーは職人的な手仕事の痕跡、木の反り・木目・丸みを「美しさの根拠」として積極的に使っています。Yチェアの背もたれの曲線は人体を包み込む「優しさ」を形にしていて、そこには使い手との情緒的な対話が埋め込まれています。


彼の美意識は「人間中心(アントロポセントリック)」で、「座り心地の良さを形にする」という目的が美の方向を決めています。


しかしジャッドはこの考え方を根底から否定しています。彼にとって機能とは「椅子として成立すること」以上でも以下でもなく、そこに感情を乗せることは人工的な作為=ファルス(偽り)でした。美しさは感情移入から生まれるのではなく、形・寸法・素材の論理的整合性そのものから生まれる、という信念でした。


家具と美術は別個のものではありますが、ジャッドの全作品に通底する同じ哲学  ― 論理性と透明性に基づき、人工的な作為を排する姿勢 ― から生まれています。家具は建築と同様に機能を果たさねばならず、芸術は作家個人のために存在しました。ジャッドにとって、家具や作品をどう配置するかは、制作行為そのものと同じくらい重要でした

ーイセタンザスペース《Donald Judd:Design》より



ウェグナー

ジャッド

美の源泉

手仕事・有機的曲線・温もり

論理・比例・素材の誠実さ

使い手との関係

情緒的対話

中立的な共存

デザイナーの自己表現

職人性に宿る

意図的に排除される

美意識の軸

人間中心

空間・幾何学中心


💬椅子を通して、「美しさとは何か」「生活とデザインはどう結びつくのか」を静かに問いかけてくる展覧会


ドナルド・ジャッドの家具と版画作品を展覧会で鑑賞。ミニマリズムの思想を体現する家具の特徴、ハンス・ウェグナーとの違い、素材と色への徹底した姿勢、そして20点組の版画作品について考察するレポート。
版画作品とカラフルな棚

素材と色へのこだわり


家具はジャッドがニューヨークおよびテキサス州マーファの自身の空間を整えるために設計したベッド、椅子、棚、テーブルを紹介します。

ジャッドの家具は、木材、合板、薄版金属から作られており、それぞれの素材と用途から直接導き出されたものです。展示もこの三つの素材カテゴリーに分けて構成されています。

機能と造形の両立は、ジャッドの家具に共通する特徴です。

ーイセタンザスペース《Donald Judd:Design》より


今回の展示は「木材・合板・薄板金属」の三素材に分類されていました。

これはジャッドの素材哲学を反映しています。


ドナルド・ジャッドの家具と版画作品を展覧会で鑑賞。ミニマリズムの思想を体現する家具の特徴、ハンス・ウェグナーとの違い、素材と色への徹底した姿勢、そして20点組の版画作品について考察するレポート。
黄色・オレンジのバリエーション、真鍮の机

銅板の棚
銅板の棚
ドナルド・ジャッドの家具と版画作品を展覧会で鑑賞。ミニマリズムの思想を体現する家具の特徴、ハンス・ウェグナーとの違い、素材と色への徹底した姿勢、そして20点組の版画ドナルド・ジャッドの家具と版画作品を展覧会で鑑賞。ミニマリズムの思想を体現する家具の特徴、ハンス・ウェグナーとの違い、素材と色への徹底した姿勢、そして20点組の版画作品について考察するレポート。作品について考察するレポート。
木材のソファ

素材について:ジャッドは素材が持つ固有の性質——合板の平滑さ、銅の重さと赤み、真鍮の光沢——をそのまま形にしました。素材を「加工して何かに見せる」ことを嫌い、「これは合板である」「これは銅である」という事実そのものを表情にしています。ステンレスや銅・真鍮・アルミなど工業素材を好んだのは、手仕事の変動を排除し反復・複製可能性を担保するためでした。


色について:彼の立体作品(スタック、スペシフィック・オブジェクツ)ではプレキシグラス(アクリル)の鮮やかな色彩——赤・黄・青・緑——が特徴的です。

これは感情的な意味を持たせた色ではなく、「この色はこの色である」という事実の提示です。


確かに、図面上の寸法以外の手仕事的な変動は皆無で、素材のままをあたかも、それがそれとして最初から仕組みとして存在していたかのような、無機質さを感じました。


しかし無機質だからと言って工業的・大量生産品とは異なる印象を与えるのは、ジャッド自身の采配・美意識や禁欲的なこだわりが見て取れるからでした。


色彩についてもビビットでありながら発色よく、感情的な意味を惹き起こすことはないが、スタイリッシュでモダン、ポップさも含めてこちらの感情をポジティブに揺さぶりました。


ドナルド・ジャッドの家具と版画作品を展覧会で鑑賞。ミニマリズムの思想を体現する家具の特徴、ハンス・ウェグナーとの違い、素材と色への徹底した姿勢、そして20点組の版画作品について考察するレポート。
会場はビビットでポップな印象、ミニマルさがジャッドらしさ際立つ

20点組の版画作品


家具とあわせて、ドナルド・ジャッドの版画作品も紹介します。

版画家としてのジャッドは、形の比率や左右の釣り合いを重視し、色の組み合わせや変化を考えるための方法を版画制作に取り入れてきました。

本展では、40年以上にわたり版画制作に取り組んだジャッドの完全な版画セット4作品を展示販売します。初期の版画では一色または二色が使われることが多く、後期には木版による多色刷りが用いられました。最大のセットは、20点組の木版で構成されています。

ーイセタンザスペース《Donald Judd:Design》より



版画においても、初期は一色・二色、後期には多色木版へと展開しましたが、色の組み合わせはプロポーションと変奏の探求として扱われ、絵画的な情感表現とは一線を画しています。


プロポーションと対称性を数学的に設定し、色の組み合わせを「変奏(ヴァリエーション)」として体系的に展開しました。20点組という構成も、一つの命題を論理的に展開しきるという姿勢の表れで、彼の彫刻における「スタック(積み重ね)」の連続性と本質的に同じ思考です。


また、版画は「複数存在できる」という性質を持ちますが、ジャッドはこれを民主化とは見ず、版数・品質・展示方法にきわめて厳格だったということです。


ドナルド・ジャッドの家具と版画作品を展覧会で鑑賞。ミニマリズムの思想を体現する家具の特徴、ハンス・ウェグナーとの違い、素材と色への徹底した姿勢、そして20点組の版画作品について考察するレポート。
よく見ると、色彩にかすれがある

会場壁面は水平方向に長いので、20点のリトグラフは二段10列に並んでいました。

多くとも3色で刷られた版画は作家の身体性の痕跡がなく、論理的に計画された色面と形をそのまま正確に再現していいます


直線と長方形。


これだけの要素で色の組み合わせを「変奏(ヴァリエーション)」させながら、近寄りがたさを感じさせません。版画は和紙に刷られていること、選択された色が懐かしさや温かみを感じさせる配色であることから、わたしたちの心理状態や生活空間に左右されずに、純粋に幾何学と色に集中できるように作られているようでした。



おわりに


今回の伊勢丹の展示は、ジャッドの哲学を家具・版画という「物」を通じて体験できる貴重な機会でした。


木材・合板・金属という三つの素材カテゴリに分けた構成自体が、素材の論理を尊重するジャッドの姿勢を反映していました。

しかし、イベントスペースという限定された空間では配置(どの椅子がどこに、どう置かれるか)といった、彼の思想が伝わりきれていないのが残念でした。


なぜならジャッドにとって展示方法は制作行為と同等の重みを持っていたからです。

テキサス・マーファのChina Ranch(後のChinati Foundation)で、広大な土地に作品を永続設置したのは、作品を流通・販売・移動可能なものとして扱う商業美術界への根本的な異議申し立てでした。

家具の配置も同様で、「どこに・どう置くか」が作品の一部だったからです。


2026/2/7(土)~2026/3/8(日)

新宿伊勢丹本館2階 イセタンザ・スペース

営業時間10:00ー20:00

観覧料:無料



BASEでは2026年カレンダーやポストカードやドローイング作品を取り扱っています。是非一度ご覧になってみてくださいね。


🚩2月27日更新📝【note:もうひとつのブログ】

noteではWixブログで書いた内容を、読みやすくわかりやすいテキストにしています。

写真を交え、わたしのアートについて発信しています。こちらも是非楽しんくださいね。




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