2026展覧会レポート#53|密やかな美 小村雪岱のすべて(後期)@埼玉県立近代美術館
更新日:9月30日
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2025年にあべのハルカス美術館を皮切りに、千葉市美術館を経て、埼玉にやってきた「小村雪岱(こむら せったい)」展を見に行ってきました。
本展は前期・後期で約200点の大規模な展示替えを行いながら、雪岱の約25年間の画業を過去最大規模で紹介する回顧展です。後期は8月18日(火)-9月23日で挿絵画家としての代表作が出そろいます。前期を見に行き、約2ヶ月後に再訪して来ました。
💬「小村雪岱」展の見どころをまとめました。
💬前期レポート
再訪して思ったのは、これはあたらしい二度目だ!ということでした。
今回の展示の特徴は、約700点を前期・後期に分けて展示することにあります。
大規模な展示替えを行い、前期と後期で異なる作品を楽しめる構成になっています。後期を見ると、切り口が違えば楽しみかたも異なり、自分の好みも分かれるということがわかりました。結論から言えば、わたしは後期の方が雪岱の実力が発揮されるのをよく見ることができました。後期は肉筆画が多く、舞台装置原画も前期の倍以上展示されていました。
会場構成は同じでありながら、内容がこれだけ違うと前期がぼやけてしまい、前期で何を見たかを思い出せない箇所もありました。
しかし二度楽しめることをはじめて経験しました。
日本美術の素材の特徴から長時間の鑑賞に堪えられないこと、劣化を防ぐ目的もあるように、前期と後期で展示替えをするときは、どちらも鑑賞しに行きたいと思いました。
一度見た印象や感想はフレッシュでその時限りの素直さがありますが、時間を置いてもう一度見に行くと、いかに見ていなかったかということもわかります。小村雪岱展では総入れ替えに近い展示替えが行われたので、見ていなかったことを確かめるのは図録しかありません。
後期作品の目玉は、キービジュアルになった《蝶》です。
この掛け軸はガラスケースに入ってこじんまりとしていましたが、雪岱の繊細さやモダンさ、品の良さとさりげないスイートな魅力を感じました。前期を通して、わたしは展覧会自体を「残る気配」とタイトルを付けましたが、後期では「気配」より、雪岱の女性像から「スイート」というワードが出てきました。それは突然降って湧いたのではなく、雪岱が明治製菓のPR誌(広報雑誌)の表紙を手掛けていたのが残ったからです。
昭和初期に明治製菓が発行していた企業PRのための雑誌ですが、雑誌名「スヰート」には、雪岱の資生堂時代のデザイン感覚と、その後の企業PRにおける仕事とのつながりを感じました。肉筆画《菊》と、『処女の友』第13巻第8号表紙原画「露涼し」の朝顔はきらきらとした粉が輝いていました。清楚であり、簡潔で張り詰めた抽象化が美しい作品です。
前期と後期では、こんなにも毛色が違うものを見られるとは思っていなかったので、二度訪れる良さを実感しました。その分、その変化や毛色の違いを深掘りしてテキストに書けるように、もっとよく見ること、何を?というところまで、自分に深く落とし込む鑑賞というものを考えました。これは雪岱の作品とは関わりはないですが、鑑賞そのものへ、自分の一回一回の経験について想いを馳せることにもなった展覧会でした。
会期:7月11日(土)― 9月23日(水・祝)※月曜休館
前期|7月11日(土)-8月16日(日)
後期|8月18日(火)-9月23日(水・祝)
会場:埼玉県立近代美術館
開館時間:10:00-17:30
入場料:一般 1,400円
🪞小村雪岱について・会場構成・主な出品リスト
小村雪岱(1887-1940)
小村雪岱は1887年、埼玉県川越に生まれ、1940年に53歳で没した、大正から昭和初期に活躍した美術家です。日本画を学び、泉鏡花の『日本橋』を皮切りに装幀・挿絵の仕事を手がけました。その後も、日本画、舞台美術、映画美術など幅広い分野で活動し、独自の洗練された美の世界を築きました。
本展では、装幀、挿絵、日本画、舞台美術など約700点の作品・資料を、雪岱の約25年間の活動に沿って紹介しています。特に、泉鏡花を中心とする小説家、画家、出版人、役者らとの交流に注目し、「人とのつながり」から雪岱の作品世界を再考する構成となっています。
会場構成(全10パート・編年体)
プロローグ|密やかな美:《青柳》《落葉》など、雪岱様式を象徴する代表作で幕開け
第I章|「小村雪岱」の誕生まで:画家になるまでの前史
第II章|泉鏡花『日本橋』―装幀の始まりと開花:装幀家デビューの原点
第III章|意匠家のまなざし―古典からモダンまで:雑誌・商業デザインなど図案家としての仕事
第IV章|挑戦と模索の時代:1926〜1931年:活動が多分野に広がっていく時期
第V章|「九九九会」の集いから:鏡花を慕う文化人グループとの交遊
第VI章|挿絵の真骨頂―粋と艶の美学:「おせん」「お傳地獄」など挿絵画家としての代表作
第VII章|世の需めに応えて―円熟期の装幀・舞台装置・肉筆:舞台装置や肉筆画も含む円熟期の仕事
第VIII章|別れの時:1939〜1940年:晩年、映画美術も含む最後の仕事
エピローグ|没後の顕彰:戦後の再評価の歩み
雪岱の生涯をほぼ時系列でたどりつつ、装幀・挿絵・舞台美術・日本画という複数の顔が並行して展開していく構成。
出品作リスト(要点)
《邦枝完二「お傳地獄」挿絵原画(川に投げ込まれたお初)》1935年・紙本墨画
《蝶》1925年・絹本着色(川越市立美術館蔵)
《見立寒山拾得》絹本墨画(清水三年坂美術館蔵)
《見立牽牛織女》1929年(田中屋蔵)
《泉鏡花『日本橋』表紙》1914年(田中屋蔵)
《吉川英治「遊戯菩薩」挿絵原画》1935年・紙本墨画
《秋海棠図》1905年(個人蔵・埼玉県立近代美術館寄託)
松岡映丘他《草枕絵巻》上巻・中巻(奈良国立博物館蔵)
前期・後期の見どころ
前期は装幀家・日本画家・舞台美術家としての原点となる仕事が中心となり、後期は「おせん」「お傳地獄」など挿絵画家としての代表作が出そろいます。
※詳細な出品作品一覧は埼玉県立近代美術館の公式サイトでPDF公開しています。
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