2026展覧会レポート#57|ルーシー・リー展 ―東西をつなぐ優美のうつわ―@東京都庭園美術館
- 8月14日
- 読了時間: 9分
更新日:8月15日
📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
ルーシー・リーの作品が初めて日本の美術館で展示されたのは、2010年の国立新美術館でした。その後、2015~2016年には「没後20年 ルーシー・リー展」が開催し茨城、千葉、姫路、郡山、静岡に巡回しました。このときの千葉市美術館に観に行って以来のルーシー・リー展です。東京の発信力のある美術館や全国的に巡回したことで、その認知度は急速に高まっていきました。
💬見に行く前に見どころをまとめています。

約10年振りに見た印象
約10年振りに見たルーシー・リーの陶器は正直、期待していたほどのものではありませんでした。それくらい初見の時のインパクトが大きかったということなのかな。さらに、前回を上回る目玉作品(例えば未発表作品や制作ノート、マケットなど)があるわけでもなく、改めて感動を刷新するものがあったかというと、そうではなかったかな?というのが第一印象でした。
邸宅空間と作品
公式サイトが掲げる今回の見どころのひとつに、庭園美術館という邸宅を展示室にした特殊な空間での、建築と作品の対話があります。リーの作品が、人の住んだ生活空間や、私的な部屋や公的な部屋に置かれることによって、陶器が道具として、用途として使われるものであることに自然と目を向けるようにもされていました。美術館というホワイトキューブでは、芸術品・工芸品として見られる側面が強調されるからです。
朝香邸は一般家屋と違い、アール・デコ調のお城のような作りです。その設計から小さな部屋が多く、限られた点数の展示品しか置けません。本館1階、2階を一通り見て回り、何となくの物足りなさを感じました。振り返ってみると、この「対話」を、いち鑑賞者としてどれだけ堪能できていたのだろうかという、若干の後悔も残りました。
新館ギャラリー、ハイライト
きっと主催者も本館だけでは持て余すと思ったのでしょうか(かどうかはわかりませんが)、新館ギャラリーでは、リー作品のほか、ハンス・コパー、バーナード・リーチ、濱田庄司、ジャネット・リーチ(バーナードの妻)の作品と一緒にまとまって展示をしていました。このフロアがなければ、ちょっと残念に感じたかもしれません。しかし新館の展示は、その中でもようやくハイライトになるものでした。
それは、これまでリー作品が同時代の同業者や、異国の作家と一緒に並べて展示をしているのを私自身は見たことがなかったからです。こうして異なる場所に住む作家を比較しながら、社会背景、分野をまたいで多面的に考察し構成する美術展が、増えたように思えます。美術史の上書き、あるいはアップデートを試みる転換が起きているようです。
わずか10年前の展示とは異なる今回の見せ方も、その一つです。
ハンス・コパーという発見
そして、リーの助手として、ドイツ出身の当時20代だったハンス・コパーの仕事を展示していたのが、わたしにとって収穫でした。名前だけの存在だったハンス・コパーの作品を初めてみて、撃ち抜かれました。リーの作品と共通する部分もあり、際立つ部分もあり、彼がリーに熱量も含めて影響を与えたのだろうということも、作品を通してみました。テキスト以上に感じる部分がありました。
リーチ、濱田との比較して
またリーがその当時すでに著名人として名を馳せていたバーナード・リーチに作品を見せたところ酷評され、リーチ風に作った作品《蓋椀》も展示していました。
わたしはリーチの作品を見はじめてまだ数える程度ですが、単独で見たときには意識しなかった部分が見えてきました。
リーの作品を単独で見ると、優雅で華奢ですが、フォルムにしっかりした芯があり、うすさや軽さは美徳のように感じます。しかしリーチや濱田の作品からするとそれは「不健康なこと」だと見えるというのです。リーチと濱田のこってりとしていて、ずんぐりと厚く、朴訥として飾らないフォルムには健康さがある。そのふくよかさや重さというのが、リーの陶器からみれば、男性的な感じがしてなりません。
すると、その当時全体で見たときの大きな類似や傾向には流れが見えるし、流派や派閥も感じます。作家の発言力や、立ち位置や影響力という威信も感じられました。人でみれば、その人の独自性というものも現れてきます。そういう意味で、ルーシー・リーとハンス・コパーの目指すところは同じであり、感覚や理想もまた共有できたパートナーだったことを改めて実感しました。
釉薬に見る、鉱物と惑星のイメージ
リー作品の洗練したフォルムとビビットな色彩は、惑星や鉱石、金属といったイメージを持ちます。惑星も鉱物も、陶器も、地球を構成する物質からできています。そして陶器は、その物質を人間が「火」によって変化させたものです。釉薬の研究に熱心だったリーは、鉱物の多くが酸素・ケイ素・アルミニウム・鉄・カルシウム・マグネシウムなどの元素が結びついてできるように、陶器の中でそれを実現しようとしたのかもしれません。
だからこそ、リーやコパーの作品は原初的で原始的なだけでなく、釉薬の色や表面の変化で、地中から掘り出された鉱物や、遠い惑星の表面を連想させるのかもしれません。「火」を介在させながら。
《熔岩釉鉢》の荒々しい表情や、《ブロンズ釉花器》の金属的な光沢を思い出すと、この連想はいっそう強くなります。
場と作品を見る目、その課題
こうして書いていても、庭園美術館という特殊な内装を通してみたことに、まだ十分に考えが及んでいなかったように思います。場所と作品が直接記憶に結びつく展示というのは、わたしにとってそういう風に作品を見る意識が希薄なんだろうか、とも思ってしまいました。
公式サイトが「見どころ」として掲げるほどには、会場と空間と作品がどう調和し、あるいは不調和であるかという視点を、十分に持てていなかったのかもしれません。
特殊な空間で鑑賞するときこそ、作品が置かれる場所によって見えかたがどう変わるかという些細な点にも意識を向けたい。それが、今回の鑑賞を通して見えてきた、自分自身の課題です。
比較展示のおもしろさ
一方で今回の展示は、リーという知っているはずの作家に、これまで見たことのない一面からスポットを当てていました。既知の作家の比較展示から新しい作家に出会える構成の面白さも、今回実感したところです。テキストで読んで知っていたつもりのことも、実際に作品を目の前にして視覚を通して見比べることで、初めて実感が伴います。
これもまた、会場に足を運んでこそ得られるものだと思いました。
📝訪問メモ:当日窓口でチケットを購入する予定の方へ
わたしは事前予約はせず、当日窓口でぐるっとパスを提示して購入したところ、鑑賞時間を指定され、午前中最短でも約1時間待ちとなりました。
待ち時間中は庭園や新館ミュージアムショップに入場できたので、そこで過ごしました。
当日券の方は時間に余裕をお持ちになって、あるいはオンラインで日時指定予約をしておくとスムーズです。
今回、図録を購入しました。《ブロンズ釉花器》が大きく印刷されたピンク色がメインカラーの表紙です。ハンス・コパ―の作品も掲載されているのが購入の決め手でした。
会期:2026年7月4日(土) - 9月13日(日)※月曜休館
会場:東京都庭園美術館(本館+新館)
開館時間:10時 〜 18時(入館は閉館の30分前まで)
💡8月7日、14日、21日、28日(金)は21:00まで開館(入館は閉館の30分前まで)[サマーナイトミュージアム2026]
入場料:一般 1,400円(ぐるっとパス利用で1,120円)
🗾巡回情報
石川県立美術館(会期終了)
三重県立美術館:2026年9月26日(土) 〜 12月13日(日)
あべのハルカス美術館:2026年12月26日(土) 〜 2027年3月7日(日)
🪞会場構成と主な出品作品
会場構成
章 | タイトル | 展示室 |
Introduction | (導入) | 本館1階 |
第1章 | ウィーンに生まれて | 本館1階 |
第2章 | ロンドンでの出会い | 本館2階/新館ギャラリー1 |
第3章 | 東洋との出会い | 新館ギャラリー1 |
第4章 | 自らのスタイルへ―陶芸家ルーシー・リー― | 新館ギャラリー1 |
主な出品リスト
第1章 ウィーンに生まれて
No.5 ルーシー・リー《鉢》c.1926(個人蔵)― 現存する最初期の作品のひとつ
No.8 ルーシー・リー《白釉カップ》c.1936(遊玄庵)― ウィーン時代最後期の作
No.3 上野リチ・リックス(装飾)/ヨーゼフ・ホフマン(形)《リキュールグラス》1929(京都国立近代美術館)― リーが師事したホフマン周辺の工芸を象徴する一点
No.9〜13 バウハウス系陶芸家(マルクス、リンディッヒ、ボーグラー)作品(国立工芸館)― ウィーン工房と同時代のドイツ工芸の潮流を示す比較展示
第2章 ロンドンでの出会い
No.25・26 ルーシー・リー《ボタン》1939–43/1940–50年代― 亡命後、生計を支えたボタン制作の実例
No.31 ルーシー・リー《緑釉格子文楕円鉢》c.1954(井内コレクション)― 独自の格子文様が確立し始めた時期の代表作
No.52・53 リー×ハンス・コパー《コーヒーセット》c.1955/《カップ》c.1960― 二人の協働を示す貴重な共作
No.66 ハンス・コパー《キクラデス・フォーム》1972(国立工芸館)― コパーの代表的フォルム
No.16 バーナード・リーチ《ティーセット》c.1920–25(国立工芸館)― リーチのイギリス民芸様式を示す基準作
第3章 東洋との出会い
No.69 濱田庄司《掻き落とし文大鉢》c.1923(国立工芸館)― リーの掻き落とし技法との関連が語られる代表作
No.74 バーナード・リーチ《Donburi(楽焼葡萄文鉢)》1919(国立工芸館)― リーチの日本滞在期の楽焼
No.86 ルーシー・リー《白釉鎬文花瓶》c.1976(国立工芸館)― チラシ・PRにも使われる象徴的な一点
No.85 参考図版:重要文化財《壺形土器》(弥生時代)― 東洋のやきものとの関係性を示す比較展示(※石川・三重・大阪会場のみ)
第4章 自らのスタイルへ―陶芸家ルーシー・リー―
No.97 ルーシー・リー《ピンク象嵌小鉢》c.1975–79(国立工芸館)― コラボメニューにも採用された代表作
No.99 ルーシー・リー《青釉鉢》1978(国立工芸館)― 展覧会メインビジュアルの一つ
No.106 ルーシー・リー《熔岩釉鉢》c.1980(井内コレクション)― 円熟期を代表する熔岩釉の名品
No.108 ルーシー・リー《ブロンズ釉花器》c.1980(井内コレクション)― 晩年の色彩表現の頂点
No.117 ルーシー・リー《白釉ピンク線文鉢》c.1984(井内コレクション)― 最晩年に近い時期の作、繊細な線文が特徴
主要な図録収録作品はほぼ井内コレクション(国立工芸館寄託)に集中している。
京都国立近代美術館・大山崎山荘美術館からの出品も見どころです。
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