top of page

2026展覧会レポート#54|エットレ・ソットサス—魔法がはじまるとき、デザインは生まれる|アーティゾン美術館

  • 4 日前
  • 読了時間: 9分

更新日:1 日前

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


エットレ・ソットサスの家具をみたら、実物を見たくなる。


日本にいてはなかなかお目にかかれないような斬新な色使いと、柄と柄の組み合わせ、そして実用性を度外視した個性的な形。おもちゃにしても、これほど目に忙しい形と質感の組み合わせはそうそうありません。

知育玩具にしても、ここまで複雑にはしないでしょう。


斬新すぎてついていけるかどうか分からない、ぶっ飛んでいるかもしれないと思うと、保守的なわたしはいささか黄色信号を灯しながらアーティゾン美術館へと向かいました。


(アーティゾンでは前回の「モネ展」を見逃してしまったので、展覧会情報は初動が肝心です。)


💬見に行く前に見どころをまとめました。来館時の注意点も参考にしてみてください。



アーティゾン美術館「エットレ・ソットサス —魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」展のレポート。近未来的な会場デザインから《トーテム》やメンフィス期の家具まで、日本初の大規模回顧展を巡ります。会期は2026年10月4日まで。
2026年6月23日[火] - 10月4日[日]|「エットレ・ソットサス—魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」|アーティゾン美術館

知られざる巨匠、ソットサスとは


今回、この展覧会で取り上げられるまで、恥ずかしながらエットレ・ソットサスのことを知りませんでした。そこで簡単にプロフィールを調べてみました。


ソットサス(1917–2007)は、20世紀イタリアを代表する建築家・デザイナーです。1950年代からオリヴェッティ社やポルトロノーヴァ社のデザイナーとして数々の名作を手がけ、なかでもオリヴェッティのタイプライター「バレンタイン」はよく知られています。

1981年には国際的なデザイナー集団「メンフィス」を結成。機能性だけでなく、色彩や遊び心、感情を重視した革新的なデザインで、ポストモダン・デザインを象徴する存在となりました。


ちなみに本展のサブタイトル「魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」は、

ソットサスが1962年に残した「デザインが始まるのは、合理的なプロセスによる改良が終わり、魔法のプロセスによる改良が始まるときである」という言葉に由来しているそうです。


石橋財団は近年、ソットサス作品を重点的に収集しており、家具、セラミック、機器類、ガラス器、写真、ドローイングなど多岐にわたる作品が、現在100点を超えるコレクションとなっています。本展はその所蔵作品と関連資料を初めて一挙に公開する、日本初となる大規模回顧展。アーティゾン美術館としても初のデザイン展という点も見逃せません。



会場に足を踏み入れて


まず会場に入って感じたのは、「近未来」的なデザインで統一された、とてもおしゃれな空間だということでした。シルバーやストライプ、ビビッドなピンクやピーコックグリーンの壁色に、SF映画のセットに迷い込んだかのようなワクワク感がありました。これまで見てきた美術展のなかでも、このデザイン構成はかなりこだわりが感じられ、抜かりのない、アーティゾン美術館としてのクオリティの高さを感じました。


近未来的な空間に、奇妙な大型のセラミックオブジェと、モノクロの写真というコントラスト。過去と未来が交差する演出です。キャッチーなデザインとポップな色彩で一目を惹きながらも、謎を含んだミステリアスでエキゾチックな要素を感じさせる、それがソットサスのデザインでした。



section2|《トーテム》― 心を救うためのデザイン


例えばキービジュアルにもなった《トーテム》は、小学校にあったトーテムポールを思い起こさせます。高さ3メートルを超す陶器の柱を前に、その大きさから伝わるのは、デザインを越えて祈りの対象にもなり得るだろうなということでした。


1960年代のヒッピーカルチャーに傾倒し、東洋の神秘的な精神世界に興味を持ったこと、また61年にインドや南アジアを旅し、古代遺跡や貧しい人々が暮らす街を訪れて大きなカルチャーショックを受けたことが、この作品の背景にあるようです。

ソットサスは、デザインを人々の心を救うものと捉え、《トーテム》を人々の心の救済の道具として、巨大な陶器で制作したといいます。そのためか、色合いの華やかさとは裏腹に、神聖さや祭壇のようなものを見ようとすれば見いだせる作品でした。



section3|1970年代、デザインを巡る放浪


1970年代、デザインを巡る放浪の時代は、アース・アートのような展開を見せています。展示されているモノクロ写真では、地球の表面、大地そのものを素材に、直接手を動かしてつくり出す様子が記録されています。そこに椅子を置いたり、旗を立てたり、木の棒で囲いをつくったりして、その場限りのインスタレーションを行いながら、デザインという商業的な営みから、現代アートというコンセプチュアルな方法へと思索を実験していきます。写真の下に添えられたテキストを手がかりに、頼りない素材で作られたともしびのような作品に、ソットサスの純真な思索と創造性を見ました。


スペイン・カタルーニャ地方へ放浪し、ピレネーの山々の厳しい自然を旅しながら、建築やデザインを巡る思索的な写真に短いテキストを添える。それらは「隠喩(メタファー)」シリーズとして展示されていました。この一連の旅と写真は、ソットサスのデザインに何をもたらしたのでしょうか。「機能性がすべて」というモダンデザインの考え方に疑問を投げかけ、遊び心や装飾性、ユーモア、個性を積極的に取り入れたデザインへと向かう、その転換点になった気がします。



sectiom4|1980年代、メンフィスの時代


1980年代、メンフィスの時代です。国際的なデザイナー集団「メンフィス」時代の家具のほか、倉俣史朗やミケーレ・デ・ルッキらの作品もあわせて紹介されています。

倉俣の《トウキョウ》というテーブルはコンクリートとガラスの破片でできたモザイクでできており、日本の室内でも充分普段使いできる作品だと感じました。



section5|飽くなきデザインの冒険


メンフィス離脱後も、遊び心あふれる挑戦的なデザインをつくり続けた晩年の仕事が紹介されています。ここでは、半ドームの中に、ソットサスがデザインした花瓶が展示されていました。花瓶と言われてもピンとこない、カラフルなガラスと針金を組み合わせ、瓶の中に瓶が入ったデザイン、柄on柄の取り合わせ。トリッキーで羽目を外したような大胆な感覚は、イタリア的な気質によるものなのか、なかなか国内では見られないものです。


だからこそ、「遊び心」という言葉を使うときの、このくらいだろうという想像を軽々と超えてくる。遊ぶ。ってとは、もっともっとキッチュでハチャメチャで大胆なものだったんですね。



遊び心という名の魔法


異質な素材の組み合わせ、忌憚なき色使い、見た目の美しさ。

日常に置くには度肝を抜かれるようなデザインと、その圧倒的な存在感。

ソットサスの中にあった消費文化への嫌悪や、古代ギリシャ・ローマ文化の精神性、思索的な思考がデザインに反映されているのだと思うと、色や形、柄や質感、機能とデザインが、まるで古代遺跡から発掘されたもの、あるいは象形文字が躍っているようにも見えてくるから不思議です。


現代的な感性が、遠い太古へと還っていく。ソットサスが宿していたものとのコントラストが面白いところです。研ぎ澄まされたシンプルさとミニマルを求める心もあれば、過剰で激しさを組み合わたくなる。その両極から、静謐さや思索的な側面を引き出すこともあるという意味で、ソットサスのデザインには、たしかに魔法がはじまっているのです。


会期:2026年6月23日[火] - 10月4日[日]※月曜休館

会場:公益財団法人石橋財団アーティゾン美術館

開館時間:10:00–18:00(毎週金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで

入場料:一般 1,500 円(窓口販売)。1,200円(ウェブ予約)



🪞会場構成と主な出品作品


会場構成|5つの時代区分でたどるソットサスの創作

本展は、副題の「魔法がはじまるときにデザインがはじまる」という言葉に表れた、合理性や機能性といった従来のモダンデザインの枠にとらわれないソットサスの自由な創作姿勢を、次の5つの時代区分で紹介する構成になっています。


  1. 1950年代後半 — イタリア企業との協働 オリベッティ社やポルトロノーヴァ社のデザイナーとして活動を始めた時期。名作デザインを次々に生み出し、その名を知らしめた頃の仕事を紹介。

  2. 1960年代 — デザインの実験 世界的な反体制の機運を背景にした「ラディカル・デザイン」の潮流のなかで、東洋美術やポップアートに着想を得た斬新な創作に取り組んだ時期。

  3. 1970年代 — デザインをめぐる放浪 ミラノでの仕事を中断し、スペイン・カタルーニャ地方の荒野を旅しながらコンセプチュアルな写真を撮影し、「デザインとは何か」を哲学的に探求した時期。

  4. 1980年代 — メンフィスの時代 国際的なデザイナー集団「メンフィス」を結成し、大胆な色彩と形態によるデザインでセンセーションを巻き起こした時期。

  5. 1990年代 — 飽くなきデザインの冒険 メンフィス離脱後も、遊び心あふれる挑戦的なデザインをつくり続けた晩年の仕事を紹介。



主な出品作品リスト

会場構成に沿って、代表的な出品作品を紹介します


1950〜60年代|企業との協働とデザインの実験

  • 《ヴァレンタイン》(1968年、ペリー・キングとの共作/製作:オリベッティ)— 携帯用タイプライター

  • 《モービル MS.180》(1959-63年頃/製作:ポルトロノーヴァ)

  • 《スーパーボックス》(1966年デザイン、1968年製作/製作:ポルトロノーヴァ)

  • 《トーテムのためのドローイング》(1964年)


1970年代|放浪と写真

  • スペイン放浪期に撮影されたコンセプチュアルな写真作品群


1980年代|メンフィスの時代

  • 《カールトン》(1981年/製作:メンフィス・ミラノ)— 本展のキービジュアルにもなっている代表作の書棚

  • 《カサブランカ》(1981年/製作:メンフィス・ミラノ)

  • 《オダリスク》(1964-66年デザイン、1986年製作/製作:ミラビリ・アルテ・ダビテール)

  • 《マラバール》(1982年/製作:メンフィス・ミラノ、ビトッシ)

  • 《シリウス》(1982年)


1990年代以降|晩年の仕事

  • 《アクロポリス》(1988年/製作:デザイン・ギャラリー・ミラノ)

  • 《エリンナ》(1986年/製作:メンフィス・ミラノ、トソ・ヴェトリ・ダルテ)

  • 《キャビネット No.8》(1994年/製作:ギャラリー・モーマンス)

  • 《キャビネット No.71》(2006年/製作:ギャラリー・モーマンス)

  • 《花瓶 no.4》(2006年/製作:ギャラリー・モーマンス、ジーノ・チェネデーゼ・エ・フィリオ、ファン・テッテローデ・ガラス・スタジオ)

  • 《花瓶 no.17》(2006年/同上)


このほか、盟友であった倉俣史朗やミケーレ・デ・ルッキの作品も、ソットサスの創作の軌跡を補う形で紹介されています。




あわせてどうぞ




コメント


bottom of page