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2026展覧会レポート#66|開館50周年記念アルベール・マルケ展@SOMPO美術館

9月28日
読了時間: 8分

更新日:10月3日

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


「グリローズ」というランドセルメーカーを思い出しました。


大人びて背伸びしたパリの女の子、どこにも属さない曖昧な色をしたランドセル。

これまでのガーリーでビビットな色合いのランドセルとは一線を画しているように感じました。griroseは、フランス語の「gris(グレー)」と「rose(ピンク)」をかけ合わせた言葉です。うれしいことも悲しいことも、どちらも大切な思い出となりますように──そんな思いを込めたブランド名は、こだわりとおしゃれとフランスへの憧れを纏っています。


そんなランドセルを思い出したのは、SOMPO美術館「アルベール・マルケ展」でマルケのグリ(灰色)を見たからです。



SOMPO美術館「アルベール・マルケ展」前期の観覧レポート。「マルケのグリ(灰色)」が描く中間トーン、小ぶりの作品の距離感、素描の魅力を、ランドセル「グリローズ」の連想とともにつづります。会期は12月13日まで。
2026年9月22日(火)- 12月13日(日)|開館50周年記念アルベール・マルケ展|SOMPO美術館

今年開館50周年を記念して、35年ぶりにアルベール・マルケの個展が開かれています。会期は12月13日まで。前期・後期に分けて一部展示替えが行われます。主に素描で、絵画は通期で展示替えはありません。


「マルケのグリ(灰色)」と呼ばれるほど独特な灰色と、ニュアンスに富んだ中間色のトーンの作品群は、大人の落ち着きと諦念を湛えていました。それは、旅先で出会った、天気のすぐれない日の空の色を思わせる灰色でもありました。


SOMPO美術館で見たウージェーヌ・ブータンも海景画を得意とし、職人技のように描いていました。ブータンは「絵筆をとるときは、自身の苦悩を避け、光と美のみを画面にもたらすべき」とし、「荒天を描くときも希望を象徴する青を省かなかった」といいます。それに比べると、湿り気を帯びたようなグリ(灰色)の鈍いトーンで描いたマルケは、印象派の先駆者ブータンとは異なり、フォーヴィスムに位置する世代の画家です。筆使いは大胆で、大きなブロックのような色面と、単純化したモチーフを描いています。

海景や風景、人物の描き方に、時代ごとの様式の違いがはっきりと見えました。


マルケの画面は、起伏あるストーリーがない、淡々とした生活の描写が続く長編小説か、オムニバス短編集のようです。平熱か低血圧の日の身体の重さと、なぜか冴える感覚を思わせます。

晴れと晴れに挟まれた特徴のない日。日常の中間にある微妙な倦怠。中だるみする水曜日と木曜日の違いが思い出せないあわいのよう。

一行も書き出せない日の日記の白いページのような灰色。その灰色は、毎日毎日毎日窓の外を眺め、空と雲の流れを観察し、ずっとそこにいることや、何もせずにそれを見続けていないと気づけない感覚でもあります。微細な動きと動きのないような中間で、色も匂いもとりこぼすことなく、画面に大きく取り込んでいます。


凪いだ海。色面となった水面。

靄に包まれて絵画のような橋。

カラーブロックのようにのっぺりと輝いています。ぬるっとした質感や淀んだ泥水、表情を読み取れないように、あるいは化粧が崩れた日の素顔を隠すような。


そんな絵を描くマルケ自身は、どのような人物だったのでしょうか。

画面から想像すると、精神状態の安定があったのだと思います。絵を描くときの高揚感や、ゾーンに入ったときの忘我状態には中毒性や刺激がありますが、それに引っ張られることなく一定に保ちながら、淡々とグリ(灰色)の中にある複雑なトーンを丹念に塗り重ねてみたり、さっと大振りに筆を振るったりするマルケ。我を制する筆とパレットを往復する手つき。観察する目。


同じ場所から、同じ視座で見下ろした世界の片鱗を描いたマルケ。

迷いなき筆とかっちりと決まった構図は、海洋図のお手本のようです。派手さはありません。光や影のコントラストも、朝や夜でもなく、中間の灰色と空気の重さを描いています。


ここまで灰色のトーンについて書いてきましたが、展覧会の中でも小ぶりの作品の前では、自分がその場に立ったときに見えるサイズに絵が見えました。現実の風景を大きな画面に描くときは、対象をクローズアップしたり小さくしたりして、カンヴァスの中でのサイズが決まります。小さな作品は、実際に見えたサイズで描かれているような気がしたのです。


どこまでも広がる海や橋の向こうの先ではなく、ここから見える距離。

わたしの居る場所はマルケと同じ目になった《バルコニー、または縞模様の日よけ》。

オレンジと赤の日よけの色合いは、健康的な熟れた果実のように瑞々しく、意表を突きます。なんて絵なんだろう!《ラ・グレットの窓》も小さな作品です。窓辺の茶色の花瓶にさした黄色と赤と紫の花、ピンクグレーと薄い紫色の斑点のある壁紙。ピンクと水色の空に、薄いエメラルド色をした四角い海に浮かぶ船。時間が止まります。


最後のフロアは素描の展示でした。素描の中では《オリエンタルな絨毯と裸婦》が気に入りました。マティスの素描のような線とモチーフ。この絵を見ていると、満たされていきます。大きく膨らんでまあるくなるように、身体は豊満にふくよかさは喜びになります。この素描は前期のみの展示なので惜しい気持ちもありますが、後期にはどんな作品が見られるでしょうね。


前期の内容を忘れたくないと、会場を回りました。マルケがグリの複雑なトーンを描き、観察に軸足を持っていたので、大きく飛躍した色相に飛び込んでいかず、留まった地点があります。ちびりちびとと長編小説を読み進めるような時間の流れと同じで、寂しくもふくよかな世界でした。


冒頭のグリローズは、フランスの曇り空の隠喩でもあります。マルケもフォーヴィスムの一人ではありますが、強烈な色彩の対比ではなく、あくまでフランスや旅先で実際に見た空の色、何でもない日の色、天気の悪い日を描いていました。


そこにあるのは天候不順で歓迎されず、足止めされた日の異国のニュアンスを、マルケの絵から感じました。心情に寄り添う曖昧な色を背負うランドセルや、マルケのグリ。マルケの作品は、頭でわかろうとするものではなく、言葉にできない多くのことを描いていて、どこを切っても物語の最中であるような気がしました。



会期:2026年9月22日(火)- 12月13日(日)

休館日:月曜日※、9月24日、10月13日、11月24日※ただし10月12日、11月23日は開館

会場:開館50周年記念アルベール・マルケ展

開館時間:10:00 - 18:00(金曜日は-20:00)※入場は閉館30分前まで

入場料:一般 2,000円


🗾巡回の記録

・ひろしま美術館 2026年4月11日(土)〜5月31日(日)

・三重県立美術館 2026年8月8日(土)〜9月13日(日)



🪞アルベール・マルケについて・会場構成・主な出品作品


アルベール・マルケ

Albert Marquet(1875–1947)

  • フランス南西部・ボルドー生まれ

  • 1890年、母とともにパリへ移住。国立装飾美術学校で学び、生涯の友となるアンリ・マティスと出会う

  • のちに国立美術学校のギュスターヴ・モロー教室に入り、マンガン、ルオー、カモワンらと交友

  • 1905年のサロン・ドートンヌでフォーヴィスム(野獣派)の画家として注目される

  • しかし強烈な色彩よりも、観察に基づく簡潔な構図と抑制された色調(「マルケのグリ(灰色)」)を重視する独自の作風へ展開

  • セーヌ河岸、港、海岸、都市風景を主要モチーフに、フランス各地・北アフリカ・地中海沿岸を旅しながら制作

  • 高所から見下ろす視点、水面と岸辺の水平線、人物や船のシルエットを生かした画面構成が特徴。日本美術の影響も指摘され、マティスから「我らの北斎」と称された



会場構成(内容の柱)

公式サイトは章立てとして明示していませんが、「みどころ」と主な出品作の並びから、展示は概ね以下の流れで構成されています。

  • 初期〜フォーヴィスム期(1898〜1900年代前半):裸婦、自画像、パステル画など

  • パリ/セーヌ河岸・ノートル=ダム大聖堂:積雪・霧・洪水など時間や天候を変えて繰り返し描いた連作

  • 港町の風景:ル・アーヴル、ナポリ、マルセイユ、ラ・ロシェルなど

  • 北アフリカ(アルジェ):1920〜40年代、灰色を基調とした港湾風景

  • 晩年のポン=ヌフ連作:1930〜47年、パリ・ポン=ヌフ橋を主題にした特異な作品群

  • 素描・版画コーナー:ペン画、パステル、挿絵本など約25点(会期中展示替えあり)

  • 収蔵品コーナー:ゴッホ《ひまわり》、セザンヌ《りんごとナプキン》(東郷青児作品の展示はなし)


会期は前期(9/22〜11/1)・後期(11/3〜12/13)に分かれ、素描類を中心に展示替えがあります。



出品リスト(概要)

  • 出品総数:約90点(油彩約70点+素描・パステル約20点)※公式PDFの通し番号では96点(うち欠番あり)+収蔵品コーナー2点

  • 主な出品作(一部):

作品名

制作年

所蔵先

裸婦、通称フォーヴの裸婦

1898年

ボルドー美術館

ノートル=ダム大聖堂の後陣

1902年

愛知県美術館

ル・アーヴル、船渠

1906年

ル・アーヴル、アンドレ・マルロー近代美術館

ナポリ、帆船

1909年

ボルドー美術館

ルーアン、ボワエルデュー橋とパリ河岸、快晴

1912年

パリ、個人蔵

坐る裸婦(松方コレクション)

1912年

国立西洋美術館

マルセイユの馬

1916年

ボルドー美術館

パリのノートル=ダム大聖堂、積雪

1916年

パリ、個人蔵

ル・ピラ

1935年

ボルドー美術館

ポン=ヌフとサマリテーヌ

1940年

ひろしま美術館

税関、港の煙

1942年

個人蔵(ギャルリーためなが)

雪と緑色の空、パリ(ポン=ヌフ)

1947年2月(絶筆期)

上原美術館

正式な全96点(前期/後期の展示区分入り)の作品リストPDFが公開されています。






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