落ち込んだ人だけがたどり着ける店|冬森灯『うしろむき夕食店』を読んで
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著者の冬森灯さんは、第1回「おいしい文学賞」で最終候補となり、2020年に『縁結びカツサンド』でデビューしました。「食」を通して人の心を癒やす物語を得意とする作家です。
本作はキリンビール公式noteとポプラ社のコラボレーション企画から生まれた作品としても知られ加筆修正し。2021年2月にポプラ社より刊行されました。
📚くじ引きで決める運と人との縁
『うしろむき夕食店』
著者:冬森灯
出版年:2023年
出版社:ポプラ文庫
物語の舞台は、落ち込んだ人だけがたどり着ける不思議な洋館「うしろむき夕食店」です。店を切り盛りするのは、凛とした女将・志満と、不幸体質ながら明るく働く希乃香。この店のユニークな仕掛けが「料理おみくじ」です。メニューを決められない客のために、その人に刺さる一言とともに料理が書かれたおみくじを引く。食べるものが決まらないとき、人はえてして人生の岐路にも立っているものかもしれません。
五話収録の中で、とくに好きだったのが第四の皿「失せ物いずるメンチカツ」です。イギリスへ武者修行に行った透磨と、美術史を学ぶために留学した深玲が出会います。帰国後にアンティークの店を開きたいという夢を抱きながら、安定した社員登用のオファーと好きなことを仕事にする道の間で揺れる透磨。そこに深玲の妊娠という新たな岐路が重なります。二人の選択に、うしろむき夕食店のメニューがそっと寄り添います。アンティークという古いものの価値を見出す仕事と、この店の「うしろむき」という言葉が合う一話でした。
店の本当の名は「夕食店シマ」ですが、いつしか常連客の間で「うしろむき夕食店」という愛称が広まります。「うしろ」——それは古きよき時代を思わせるなつかしい雰囲気であり、うしろを振り向けばそこには自分が辿ってきた日々があり、自分にしか醸し出せない時間がある。その豊かな時間を人と共有できる場としての夕食店。
そう考えると「うしろむき」という言葉には温かさがありますね。
敗北でもなく、勝負でもない。ただそこにいるだけで安心できる、知る人ぞ知る場所。
後を向けば見えるものもある、この店はそっと教えてくれます。
なお冬森灯さんのデビュー作『縁結びカツサンド』も同じ「食と縁」をテーマにした作品で、本作と世界観を共有しています。
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