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正直に心のうちを語れる場所|小川糸『食堂かたつむり』、『ツバキ文具店』を読んで

1 日前
読了時間: 4分

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


原田ひ香さんの著作を続けて読んできて、ふと思い出したのが小川糸さんの『食堂かたつむり』でした。2010年に柴咲コウさん主演で映画化されています。「食べること」「作ること」を軸に、リアルなお金事情の側からではなく、人と人のつながりや食べることと生きることを描く作家です。


今回読んだ二冊から言えることは、設定がすでに本を完成させているということです。どうしてこんな設定を思いつくのか。あたたかな気持ちになるだけでなく、人には打算的なところやいじわるな気持ちもある。生々しくて厭らしい態度もある。それらも物語を作る糸として縫い込まれています。



📚どこから来て、ここにあるのか。

『食堂かたつむり』

著者:原田ひ香

出版年:2008年

出版社:ポプラ社


インド人の恋人に裏切られ声が出なくなった主人公・倫子は、アパートを出払い祖母のぬか床ひとつを持って故郷へ出戻ります。約10年ぶりの故郷で気まずい関係の母・ルリコの家の離れに、一日一組の完全貸し切りの食堂を開きます。元々お店を持ちたかった倫子は多様な国の料理を身につけていました。口コミで徐々に客を増やし、経営を続けます。決まったメニューはなく、客と面談してオーダーメイドのメニューを作る。それはその時一緒に食べる人と記憶が刻まれた、特別な一皿になります。


物語は後半にかけて、それまで距離のあったルリコとの関係に変化が生まれます。もう一つの物語を読むように、新たな再生が静かに控えています。命あるものは他の命を折り合いながら、その体内でまた生まれ変わる——食べることと料理することを辿るように、小川糸の筆は進みます。口に入れるものがどこから来て、どんな過程を経て、ここにあるのか。その「どこから」という部分へ、物語は遡っていきます。


この本を読んだのは電車の中です。行きに前半を、帰りに後半を。夕方から夜に変わる空の色を車窓から感じながら、やっと北千住まで下った頃、思わず目頭が熱くなる場面がありました。人が死ぬこと、動物が殺されること、新たな場所で生まれ変わること。頭ではわかっている自然の摂理が、物語の中で目を反らさずにちゃんと描かれていることに、グッときてしまったのです。それを書いた著者と倫子の瞳の真剣さが、目に見えた気がしました。



📚文字以外にも表れる

『ツバキ文具店』

著者:小川糸

出版年:2016年

出版社:幻冬舎


20代後半の雨宮鳩子は、先代の祖母から受け継いだ鎌倉の山の手で「ツバキ文具店」を営んでいます。表向きは昔ながらの文房具店ですが、「代書屋」として依頼を受けることが多い。


代書屋とはどんな職業か。依頼者の心と身体になりきって文字を綴ること。様々な人の字に憑依し、その人になりきって手紙を書く。わたしには画家のようでも、セラピストのようでも、パティシエのようでもショップ店員のようでもある、と感じました。


手紙は自分の言葉で、自分の字で書くものという思い込みがあったので、鳩子が依頼者に代わって手紙を書くのは最初意外でした。しかし読み進めるうちに、相手を想うからこそ自分では書けないという人の心情があることを初めて知りました。依頼者になりかわり、相手への心遣いを精一杯手紙に込める。便箋や切手、書く道具、文体と字体まで、すっかり依頼者として。それが、依頼者自身も気づいていない本当の気持ちの形跡を残すように。


わたしも手紙を書くことが好きです。自分の楽しみのためでもあるし、相手にも喜んでもらいたいと思い工夫します。しかし代書屋ではないから、文体や字体までは変えません。せいぜい便箋をコラージュしたり、可愛い切手を貼るくらいです。ただ、自分の気持ちを客観的に見て、「カラサワメグミ」という人物から依頼されたように代書する真似はできるかもしれない、と思いました。


物語の中でうんうんと頷いたのは、「お会いしたことのないあなたに対しての方が、ずっと正直に心のうちを語れる」という箇所でした。手紙のやりとりを面倒に感じたり、重くてしんどいと思うときがあります。それを相手から感じ取った場合に、直接的にではなくクッションを間に置くように、自分から少し離れて「代書屋」のように書く——そういう選択肢があることを、この本は教えてくれます。


続編に『キラキラ共和国』(2017年)『椿ノ恋文』(2023年)があります。



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