森英恵という脱皮——二冊の本が覆したもの
- 12 時間前
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森英恵の二冊
展覧会の余韻とともに
森英恵展を鑑賞しに行く日は朝から雨が降り、灰色の空の下、ワンピースの裾が濡れて気分も少し下がっていました。それでも会場に入ると、外の天気とはまるで無関係に、きらびやかで鮮やかで品のよい空気が流れていた。
印象に残ったのは、その色彩と蝶のモチーフ。蝶を自身のシグネチャーとした森の意図やメッセージとは別に、私はそこに「脱皮・変身」というメタモルフォーゼを見出しました。そしてその直感が、後に読んだ三冊によって、少しずつ裏付けられていきます。
ファッションデザイナーというのは、自我が強く、己が一番という自負を持ったカリスマ。そんな偏見を私はずっと持っていました。その偏見は二冊を読み終えて確実に崩れたのでした。
📚現役の眼差しで綴ったエッセイ
『あしたのデザイン』
著者:森英恵
出版年:1982年(新潮文庫版)
出版社:新潮社
サトウシンペイの挿絵がすでに洗練したプレタ・ポルテのように魅了します。
初版から約45年が経つが、一話はコンパクトで、森の人柄がにじむ語り口は少しも古びていません。
自身の歴史を振り返るのではなく、その日その時の心境を淡彩スケッチするように軽やかに描いています。忙しく飛び回る中で見出した生活のスタイル——朝食を大切にすること、睡眠のこと、日常のささやかな習慣も描かれている。
刺激の多い日々を達観して冷静に見ている森の立ち位置が、そこかしこに見て取れます。
戦後の何もない時代から服作りを学び、新宿に店を出す。
育児と仕事、家庭と職業——当時の女性が進んで選ぶ道ではありませんでした。デザイナーとしての森ではなく、エッセイストの文章を読む心持ちで手に取ってほしい本。
この本が向けられているのは、仕事と家庭の両立に悩む女性への、静かな声援です。
📚引退後に綴った半自伝
『グッドバイ・バタフライ』
出版年:2010年
出版社:文藝春秋
2004年7月、秋冬パリ・オートクチュール・コレクションを最後に引退した後に書かれた本。『あしたのデザイン』の現役の活気とは打って変わって、落ち着いた筆致で自身を振り返る。昔を懐かしみながら、次世代への期待と後押し——孫に接するような眼差しも感じられます。
森のファッションの根源は、幼少時に過ごした島根の田舎の風景だといいます。そこで見た日本の色彩と、モンシロチョウ。蝶はやがて森のシグネチャーとなる。
森の先見性は、世界基準で日本の女性を立たせようとしたことにあります。しかしそれはフェミニズムには向かいません。男性と女性という二つの性が互いを認め合い、惹かれ合い、引き立て合う——ファッションとは男と女を考えることだ、とも森は説きます。
誰かのために服を作ること、裏方に徹することで着る人が目立ち、自分自身を見つけていく。森の服が魅力的であるのは、それを着る人間の魅力を育むから。
本を閉じてから、展示の蝶のことをまた考えました。森が服を作り続けた時間は、着る人が少しずつ自分を脱皮していく時間でもあったのではないか。森自身が何かから脱皮するように。
あの雨の日、会場を出たとき、濡れた裾の冷たさをもう気にしてはいませんでした。
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