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2026展覧会レポート#35|トワイライト、新版画―小林清親から川瀬巴水まで

  • 5月13日
  • 読了時間: 7分

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


今月24日まで開催している東京三菱一号館美術館『トワイライト、新版画―小林清親から川瀬巴水まで』に足を運びました。


事前に調べてとくに気になっていたのが、「明治の視覚を変革した写真と、伝統的な浮世絵との関わり」というテーマです。


文明開化によって失われゆく風景を惜しむノスタルジックな態度は、写真と浮世絵が共有していくことになりました。この複雑な関係を紐解くために、本展はスミソニアン国立アジア美術館と三菱一号館美術館が共同で企画したものです。


写真と版画を同列に並べて展示するという、わたしにとって初めての体験でした。


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三菱一号館美術館「トワイライト、新版画」展。スミソニアン国立アジア美術館との共同企画で、写真と版画を同列に並べるという初めての体験でした。文明開化で失われゆく風景を惜しむ感覚を、写真も版画も共有していた——実際に並べると、その目指す先が同じだったことが伝わってきます。小林清親の「光線画」の情緒、川瀬巴水《夜の新川》の路地の先に誰かが笑っていそうな光の気配。技術が完成に近づくにつれて絵の中の余白が埋まってゆく——技術と情緒は必ずしも一緒に育たない、という問いを残した展覧会でした
2026年2月19日(木) - 2026年5月24日(日)|「トワイライト、新版画―小林清親から川瀬巴水まで」|三菱一号館美術館

展示された写真はモノクロではなく手彩色されています。

セピア色に薄く塗られた色彩がカラー写真のようで、ぐっと現代に近くなるような印象です。写真の克明さや具体性が版画を凌ぐかと思いきや、むしろ版画の克明さや鮮明さに驚かされました。



平日朝から大盛況


開館からわずか30分も経たないうちに会場は満員でした。

平日にもかかわらずこの賑わいで、この展覧会への期待の大きさをひしひしと感じました。

最近どこの美術館も賑わいを感じます。作品の前に長い列ができていたり、人の頭越しに作品をみることが増えています。美術館へ行くことが、敷居の高いものでも数か月に一度の体験でもなくなってきているということでしょうか?身近になってきている?



新版画とは何か


タイトルにある「新版画」とは、明治期に外国人や洋画家を登用し、大判の実験的な試みが導入された版画のことです。

版元・渡邊庄三郎(1885-1962)が考案・主導し、彫師・摺師の職人との分業制を維持しながら、高橋松亭(弘明)らが参画しました。一方「新作版画」という言葉もありますが、こちらは三切版や四切版の小さめで手に取りやすい、伝統的なスタイルを踏まえた版画で、外国人が手土産として購入するものです。



第1章〜第2章:開化絵から光線画へ


会場構成は第1章から第8章まで。


以前、練馬区美術館「没後100年 小林清親展」(2015年)を訪れ、清親の木版画をはじめて見たときの驚きは今も忘れられません。まるで水彩画のようなグラデーションと、水分を含んだような抒情性。

そして当時の日本人ではなく、海外の人から見た「日本の良きイメージ」を映し出すような視点が印象的でした。


第1章の「開化絵」に続き、第2章から本格的に登場する小林清親(1847–1915)の版画は、淡く暗い色調とノスタルジーを感じさせる雰囲気が特徴です。

ぼんやりとした光、淡い陰影。

作品はぐっと内省的になり、親密さと闇を湛えています。

「光線画」と呼ばれるこのシリーズは、江戸の情緒と人々の感傷をも映し出していました。その時代を知らない現代のわたしたちから見ても、忘れがたい憧憬を感じる作品でした。



川瀬巴水の光の「性格」

《東京十二題 夜の新川》(1919年)


清親に憧れ、大正・昭和にかけて衰退した浮世絵を「新版画」として復活させた川瀬巴水(1883–1957)の作品は第8章でクローズアップされていました。

《東京十二題 夜の新川》(1919年)で惹かれたのは、建物と建物の隙間からこぼれる、白に近い黄色の光でした。

一見なんでもない路地の景色。でもその光の前で、わたしは足を止めました。


何かがある、と思いました。そしてその「何か」が怖いものではないと、なぜかわかりました。危険の予感ではなく、楽しいことが起きそうな予感。あの路地の先では、誰かが笑っているかもしれない。そういう光の描き方でした。明るさの量ではなく、光の「性格」を描いている。巴水はそれができる作家だと、この一点で確信しました。



《東京十二題 雪に暮るゝ寺島村》(1920年)


電信柱が中央にそびえ立ち、傘をさした一人の人物が民家の方へ歩いていくタテ構図の作品。民家から漏れるオレンジ色の光が室内の団らんを想像させ、藍色・青色と組み合わされた雪の白さが、鈍さを含んだ東京の雪景色を表現しています。



技術が上がったのに、何かが消えた

《春之雪(京之清水)》(1932年)


技術は圧倒的でした。

シルクスクリーンと見紛うほどの精緻さ。

木版画でここまでできるのかという驚きがありました。


でもわたしは、この作品の前で違和感を覚えました。上手くなったのに、何かが消えている。《夜の新川》や《雪に暮るゝ寺島村》にあった、目に見えない気配——誰かがそこにいる感じ、光の向こうに生活がある感じ——それがこの作品からは見えてきません。

完成度が上がるにつれて、絵の中の「情緒」が埋まってしまったのかもしれません。技術と気配は、一緒に育たないものなのだろうか。そのことを巴水自身の作品の変遷が教えてくれました。



小企画展「ジャポニズムの季節Ⅰ――春」


所蔵品「デイヴィー・コレクション」から春の季語に基づいた秀作を展示するミニ企画展も開催中です。2011年以来まとめて公開される機会のなかったコレクションに新たな光を当てる3部作の第1弾。小さなフロアながら、陶磁器、銀器、ガラス作品からなるテーブルウェアが文豪の一行とともにガラスケースに納められており、磨かれて輝く器の美しさと文学と共に楽しむ貴族的な優雅さにため息が出ました。



お得情報:カラーコーデ割

🟠夕焼けオレンジ/🟣黄昏パープルのカラーコーデで入場料がお得になる「カラーコーデ割」があります。ぜひ服装を工夫してお出かけくださいね。

(ちなみにわたしもオレンジとパープルを身に付けて見に行きました)


トワイライト、新版画―小林清親から川瀬巴水まで

会期:2026年2月19日(木) - 2026年5月24日(日)

会場:三菱東京一号館美術館

開館時間:10:00 - 18:00(祝日除く金曜日、第2水曜日、会期最終週平日は20時まで)

※入館は閉館時間の30分前まで

入場料:2,300円



🪞巡回会場・会場構成・出品作家一覧


♦巡回会場

スミソニアン国立アジア美術館

Washington D.C., USA / 企画元・先行開催

先行開催

(詳細非公表)

三菱一号館美術館

東京都千代田区丸の内

2026年2月19日– 5月24日


♦会場構成(全2部・9章)

第1部

小林清親と浮世絵

第1章 開化絵 歌川よし藤、昇斎一景、三代歌川広重、井上探景(安治)ら

第2章 小林清親 「光線画」シリーズを中心に約25点

第3章 井上安治と小倉柳村 清親の弟子・安治の『東京真画名所図解』、謎の作家・小倉柳村

第4章 写真 日下部金兵衛、玉村康三郎、フェリーチェ・ベアト、ライムント・フォン・シュティルフリートら。手彩色鶏卵紙プリント多数


第2部

風景版画の展開

第5章 チャールズ・ウィリアム・バートレット 来日外国人画家。渡邊庄三郎版元の大判木版多色摺

第6章 高橋松亭(弘明) 『都南八景』『雪月花』シリーズなど

第7章 伊東深水 『近江八景』全8点を中心に展示

第8章 吉田博 『瀬戸内海集』帆船シリーズ、『東京拾二題』など

第9章 川瀬巴水 『塩原三部作』『旅みやげ第一集』『東京十二題』『三菱深川別邸の図』『東京二十景』《春之雪(京之清水)》など約30点


♦主な出品作家

小林清親 1847–1915「光線画」の創始者、最後の浮世絵師

井上安治(探景)1864–1889 清親の弟子

小倉柳村 生没年不詳 謎の作家、現存作品が希少

高橋松亭(弘明) 1871–1945 新版画の先駆者

伊東深水 1898–1972 美人画・風景画の大家

吉田博 1876–1950 山岳・海洋を得意とした風景版画家

川瀬巴水 1883–1957 新版画の大成者、スティーブ・ジョブズも愛好

C・W・バートレット 1860–1940 来日外国人画家


写真部門の主な作家

日下部金兵衛 横浜の手彩色写真

玉村康三郎 風景・風俗の手彩色写真

フェリーチェ・ベアト 幕末〜明治の記録写真

R・v・シュティルフリート オーストリア人写真家


出品作の大半はロバート・O・ミュラー・コレクション(スミソニアン国立アジア美術館蔵)。ミュラー(1911–2003)は米国における新版画の普及に貢献した収集家で、約4,500点のコレクションは世界最高峰と評されています。三菱一号館美術館所蔵品も一部出品。



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