2026展覧会レポート#72|ヴィヴィアン・サッセン「Myriads」@The Mass
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先日、テキスタイルアートの展示を見てレポートを書くなかで、布が衣服になるとき、人の身体と意識はどのようにつながるのだろうかと、改めて考えてみたくなりました。
そんなとき以前目にした記事を頼りに、The Massで開催中のヴィヴィアン・サッセン「Myriads」展を見に行きました。

サッセンは1972年オランダ・アムステルダム生まれ、同地在住の写真家です。幼少期をアフリカで過ごし、静物・ポートレート・風景を通じて、ファッションとアート写真の境界を曖昧にしながら、幾何学的な形態と身体表現の抽象化を特徴とする独自の視覚言語を確立してきました。(会場配布のチラシより抜粋)
会場は3つに分かれています。
1階は初期作品が中心で、ほとんどが2000年代初頭の制作です。アーカイブから再発見された未発表作品や、最近、写真の上に絵の具で描いた作品も混ざり、新旧が交差する構成になっています。2階にはギャラリー2と3があり、2は「体の抽象性(Abstraction of body)」、3は「Frau Holle」がそれぞれ展示されています。
各会場で趣向の異なる写真が並び、展覧会全体が、展覧会タイトル「Myriads」(無数)につながるように、サッセンの「写真がもたらす尽きることのない可能性」を表す展開になっていました。
3つの会場のうち、私がいちばん長く留まっていたのは、1階の初期作品の部屋です。
目に飛び込んでくるビビットな色彩とカラーブロックのような塊と化した人物。
サッセンのルーツであるケニアの人々の日常の姿、土地のもつ強烈な光とシルエット、乾燥した空気や植物、そして人工的な色彩が写されています。作品は大小さまざまなサイズでランダムに展示されていて、凹凸のある並びが、写真の内容に遠近(奥行き)を生んでいました。
写真のなかの人間は植物の影よりも濃く、シルエットは艶めかしく、つやっぽく見えます。皮膚そのものが声や性格をもっていて、意志とは別のところで同時に喋っているようでした。身体が心を先導しているようにも感じます。写真に切り取られたこの国が、一年のうちのある季節の一部分にすぎないことは知っています。けれどもシャッターは、切り取らなかった場面までも凝縮して写しているように感じました。
2階へは、いったん外に出て階段を上がります。
ギャラリー2のテーマは、先にふれた「体の抽象性」です。
色のついた影や鏡を使った幾何学的なフォルムと、彫刻的な人間の身体という、2つの抽象が対比されています。
砂漠のような広大な土地に幾何学的な図形を取り込んだ、アーティスティックな作品が並び、コンセプト、構図、ロケーションに至るまで、すべてが作者によってコントロールされていました。
ギャラリー3は、長期にわたって継続的に制作されているシリーズ「Frau Holle」の部屋です。テーマは年齢と、それに伴う内外の変容で、被写体は2000年代初頭に出会ったオランダ人アーティストの友人です。
ここでは印画紙がそのまま鋲で留められていて、陽が当たるせいか、紙は下から丸まっていました。他のフロアと比べると写真の内容も官能的で、ポラロイドで撮ったような、私的で内密な作品でした。すべてを制御したギャラリー2とは対照的に、ここは紙の変化まで含めて、時間とともに変わっていくものを見せているようでした。
3つの会場からサッセンの写真に共通して感じたのは、「生き物の質感」です。
生き物とは人間のことで、質感とは肌のことです。
肌は表面で外部に晒されながら、内部の血の色や脈を感じさせます。
質感は、紙という平面に転写されれば失われてしまうものです。それでもこちらに肉感的に迫ってくるのは、人間のもつ色と身体のかたち、動きが、土地の自然と人工の色彩に交わり衝突し、手触りを残して紙からせり上がってくるからでしょう。
サッセンは、強烈なコントラストをもつ太陽の光と影に勝る存在として、人物の動く形や、心臓や脈拍までも紙の上に残しています。
会場では、人物が「誰か」という記号を手放し、見る手がかりを抽象化します。
そのぶん、肌の質感がこちらの身体に直接触れ、「感じること」が研ぎ澄まされていきます。
布が衣服になるとき身体と意識のつながりについて、サッセンの写真は、衣服以前の最初の布である「皮膚」を見せていたのかもしれません。
【Myriads】
会期:2026年9月5日(土)〜11月8日(日)
時間:12:00〜19:00
休館日:月・火曜日
会場:The Mass(東京都渋谷区神宮前5-11-1)
観覧料:無料
🪞 ヴィヴィアン・サッセン・開催概要・会場構成・出品作品について
Vivian Sassen/ヴィヴィアン・サッセン(1972ー)
1972年オランダ・アムステルダム生まれ、同地在住。幼少期をアフリカで過ごし、その経験から得た色彩感覚が作品の源泉になっています。静物・ポートレート・風景を通じ、幾何学的な形態と身体表現の抽象化を特徴とする独自の視覚言語を築きました。
代表的な写真集は『Flamboya』(2008)、『Umbra』(2014)、『Of Mud and Lotus』(2017)。
ミュウミュウ、ルイ・ヴィトン、ディオールなどのキャンペーンや、VOGUE、Purple、Dazed & Confusedの撮影も多数手がけています。2011年にMoMA「New Photography」展、2013年にヴェネチア・ビエンナーレに参加。2023年にパリのMEPで大規模回顧展、2024年にKYOTOGRAPHIEで大規模個展を開催しました。
受賞歴は、2007年プリ・ド・ローマ、2011年ICPインフィニティ賞、2015年ドイツ写真アカデミーのダヴィッド・オクタヴィウス・ヒル・メダル。
開催概要
展覧会名は「Myriads(無数)」。
会期は9月5日〜11月8日、時間は12:00〜19:00、定休日は月・火曜日。
会場はThe Mass(東京都渋谷区神宮前5-11-1)。
最寄りは明治神宮前駅7番出口から徒歩3分、表参道駅A1出口から徒歩5分、原宿駅東口から徒歩7分。
オープニングレセプションは9月4日18:00〜21:00で、作家本人の来日・在廊も予定されていました。
日本初公開の未発表作品と、継続制作中のシリーズ「Frau Holle」を紹介する構成で、単なる回顧展ではなく進行中の探求を示す展示です。
タイトルの由来について、作家は言葉の響きが好きで、古代的で優雅な感じがし、万華鏡のように無数の可能性を示すところも気に入っていると語っています。
会場構成
The Massの3つのギャラリーを使い、それぞれ異なるコンセプトで展示しています。
作家によると、この分け方はギャラリー側の提案だそうです。
1階:初期作品が中心です。ほとんどが2000年代初頭の制作で、アーカイブから再発見された未発表作品や、最近写真の上に絵の具で描いた作品も混ざり、新旧が交差する構成です。
2階ギャラリー2:「体の抽象性(Abstraction of body)」がテーマで、色のついた影や鏡を使った幾何学的なフォルムと、彫刻的な人間の身体という2つの抽象を対比させています。
2階ギャラリー3:「Frau Holle」を展示しています。テーマは年齢とそれに伴う内外の変容で、被写体は2000年代初頭に出会ったオランダ人アーティストの友人です。
主な出品リスト
公開情報から分かるのは次の4点です。
日本初公開の未発表作品群(1階、2000年代初頭のアフリカ関連の初期作を含む)
写真の上に絵の具でペイントした近作(1階)
「Abstraction of body」の作品群(2階ギャラリー2、色彩の影・鏡・身体)
「Frau Holle」シリーズ(2階ギャラリー3)
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