弟子の目が記録した暁斎|コンドル著『川鍋暁斎』を読んで。
- 6月26日
- 読了時間: 4分
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21日に閉幕したサントリー美術館「ゴールドマン コレクション川鍋暁斎の世界」展を見に行って来ました。
後日京橋にある画廊、加島美術「櫂 舟三郎コレクション 暁斎が描いた浮世のことども —肉筆画と版画でたどるその画業」にも足を運びました。
入場無料で、肉筆画・版画などの作品をガラスケースなしに鑑賞できる場所です。
会場には、暁斎の制作を間近で克明に記録したジョサイア・コンドルの言葉がパネルで紹介されていました。その中でとくに心に残ったのが、「暁斎は奇怪なものや、ただ美しいばかりのものでないものを好んだ」という意味の言葉でした。わたしが暁斎作品に魅了された理由は、まさにここにあると思いました。
その言葉の引用元が、今日ご紹介するジョサイア・コンドル著『川鍋暁斎』(岩波文庫)です。
外から見た暁斎ーー具体的な言葉に落とし込み伝統的な分野を可視化した。
📚『川鍋暁斎』
著者:ジョサイア・コンドル 山口静一訳
出版年:2006年
出版社:新潮社文庫
本書を読む前に、著者であるジョサイア・コンドルについて少し補足します。
Josiah Conder(1852–1920)はイギリス出身の建築家で、明治政府の招聘により1877年に来日しました。工部大学校(現在の東京大学工学部の前身)で建築教育を行い、辰野金吾ら多くの日本人建築家を育てたことから「日本近代建築の父」と呼ばれています。1880年代初頭から暁斎の死まで、およそ10年間にわたり師弟関係を続けました。暁斎もコンドルを通じて、西洋人の視点や国際社会との接点を得ました。
展覧会で見た暁斎作品は、北斎と同じように「狂う」「狂気」に近い情熱と、卓抜した筆の運び、描いた量とその速さを感じさせました。暁斎という漢字を当てる前、狩野派を離れて独立した頃は「狂斎」と称していました。1871年ごろに「暁」の字に改めましたが、「暁」には「さとる」「覚醒する」という意味もあり、筆禍事件後の心境を示したと考えられています。
本書は、川鍋暁斎という人物を海外の視点から記録した文献ですが、画材や画法、技法の実例、署名と印章といった非常に具体的な内容に踏み込み、師の制作と作品がどのように成り立っているかを教えてくれます。伝統に則った分野では「言葉よりも背中で語る」「テキストよりも師を見て学べ」という指導法が多く、外からは見えにくかったものを、コンドルは西洋の水彩画を例えに出しながら丁寧に言語化しています。日本画を専門とされている方にとっては自分の方法と照らして試行錯誤できるでしょうし、初めて触れる方にとっては作品がどのように描かれるのか、知らない世界を垣間見る楽しみがあります。
とくに興味深く読んだのは第五章「署名と印章」です。
コンドルが「暁斎ほど多くの印章を持つ者はいないのではないか」と書いているほど、小さいものから大きなもの、丸いものから四角いものまで、数々の印章が一つひとつ解説されています。署名についても、日本では「楷書」「行書」「草書」の字体があり、署名に用いる書体はなるべくその絵画の体に一致させるとあります。これを知ると、作品が何を描いているかというモチーフや技法だけでなく、署名と印章の組み合わせやその位置にも自然と目が向くようになります。
暁斎は「恩」という印章も持っていました。生きとし生けるもの、動植物、肉親、師匠、友人知人への感謝の気持ちを「恩」の字に託しました。絵の最後にその一字を残す暁斎の人格と、作品に込めた祈りや信条を感じます。
本書の初版は1911年に英語で出版され、現在でも欧米の暁斎研究における基本文献のひとつとされています。分かりやすくビジュアルも豊富な解説本が多く出ている暁斎ですが、この本は読み物として重く、専門性が高く、文字も小さい。多くの方が読みやすいと感じるものではないかもしれません。しかし暁斎の作品から一歩進んで、専門的で密度のある内容を求めている方にはぜひ読んでいただきたい一冊です。
この本を読んで、暁斎という人物の背景にある日本画の伝統、画材、画法、技法、署名や印章について多くを新しく知りました。今後作品を見るときの楽しみが増え、感覚が広がりました。
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