2026展覧会レポート#45|櫂 舟三郎コレクション 暁斎が描いた浮世のことども —肉筆画と版画でたどるその画業—@加島美術
- 56 分前
- 読了時間: 6分
📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
ガウディからピカソからカタルーニャ出身の画家たちの展覧会をつなげて見て来ました。今回は日本美術へ戻ります。
以前観たサントリー美術館ゴールドマン・コレクションで「暁斎が描いた浮世のことども」のチラシを手にしました。
同じ時期に京橋の加島美術でも暁斎展が開かれていることを知りました。入場無料、販売なし。初めて訪れる画廊でしたが、足を運んでみることにしました。
💬2026展覧会レポート#41|ゴールドマン コレクション 河鍋暁斎の世界@サントリー美術館

開け放たれた入り口、額のない作品
加島美術は東京スクエアガーデンの隣に建つビルの一階と二階が展示スペースとなっています。小雨が降る六月中旬、湿った空気と水滴が服や靴に滲みた状態で画廊に着くと、入り口は解放していました。
驚いたのは、作品が額装ではなく、そのまま壁や机の上に置かれていました。和紙の簀の目が確認できるほど薄い紙が、梅雨の湿気の中でガラスケースなしに展示されています。
保存状態は大丈夫なのか。
しかしその点こそが、画廊で見る最大の見どころでもありました。作品に至近距離で向き合える贅沢と、こんな鑑賞の方法があるのかという発見を、同時に味わうことができます。
来場者もその空気を自然に共有していました。作品に近づくときは、ハンカチを口や鼻に当てて息を作品に当てないよう配慮している人の姿がありました。
コレクターが描いた「暁斎の全体図」
本展の主役は、藤田昇氏。
自らのコレクションに暁斎の幼名「甲斐周三郎」へのオマージュとして「櫂舟三郎」という名を与えた人物です。河鍋暁斎記念美術館の監事・理事・副理事長を約10年間務め、研究者としても論考を重ねてきた国内屈指の蒐集家です。
全14のテーマで構成された展示には、美術史の中心に置かれてこなかった暁斎の「まだ展示されてこなかった作品」「研究の空白(20代前半の肉筆画)」を丁寧に埋めていく姿勢があります。同時に、あらゆるジャンルやテーマを描き尽くす暁斎の全方位性を浮かび上がらせようとするコレクションの意志も感じられます。
167点のうち65点が初公開というのは、その証左でしょう。
1F
儚い鴛鴦と、かわいくない子犬
一階展示室でまず目を引いたのは、新発見として全国初公開となる《鴛鴦図》です。20代前半に描かれたとされるこの作品は、極細の筆先で消え入るような鴛鴦を描いています。
闊達で力強く万能な筆使いがトレードマークの暁斎にしては、驚くほど儚げな一点で、暁斎とは見間違うかのような作品でした。
暁斎の代名詞である「鴉」の掛け軸も二点出品されており、ガラスなしでそのまま見られます。《雪中狗子図》の子犬は、ずんぐりとした体に松葉のような毛並みで、率直に言ってかわいくありません。蘆雪の子犬の特別さをあらためて思い知らされました。
2F
床の間の奥に、輝く一点
二階は床の間のある和室の空間に、版画や双六、一筆箋などが畳の上に展示され、床の間には掛け軸が架かっています。もう一つのフロアには日課として描いた観音図、管公図、達磨図なども並びます。こうした見せ方は、和室や床の間が日本美術を受け止めるために生まれた空間だったのだということを、あらためて体感させられます。
そして展示室の一番奥、一番暗い場所に額装して架けられた《大津絵戯画》(安政4年〜文久2年ごろ)は、この展覧会の宝物のようでした。本展が初公開となるこの作品は、画工が手がけた大津絵から念仏鬼が現れるという名工譚を題材にしたものです。一番奥の暗いところに隠してあるような配置だけに、鈍いけれどひっそりと輝きを放っていました。この一点を見られただけで来た甲斐があったと思えるものでした。
鳥獣戯画を自家薬籠中とした暁斎が好んで擬人化して描いた蛙のモチーフも随所に登場し、本展のキャプションにも蛙が描かれていてかわいらしい。そして冒頭に記した《神農図》の掛け軸の蜘蛛。美術館ではあり得ない出来事ですが、この空間では、生きているものと描かれたものが同じ場所に在ることが、不自然ではありませんでした。
日本美術は面白い
和室という形式が、日本美術を最もよく見せる場所かもしれない。
今回初めてそう実感しました。床の間に掛け軸が架かり、畳の上に版画が置かれ、作品とこちらの間にガラスが一枚もない。それは美術館の「保護」とは異なる関係で、作品と向き合う時間です。
入場無料、販売なし。
図録は全167点収録・全作品解説付きで税込1,000円(現金のみ・会場販売)。
この展覧会の全体から、コレクターの藤田昇氏と加島美術が暁斎という絵師を広く届けたいという動機を感じました。有名な暁斎ではなく、まだ見られていない暁斎を掬い上げ、ガラスなしで、無料で、惜しみなく見せてくれました。
会期:2026年6月13日[土]~6月28日[日]
前期展示/6月13日[土]~6月20日[日]
後期展示/6月21日[日]~6月28日[日]
会場:加島美術(〒104-0031 東京都中央区京橋3-3-2)
開館時間:10:00~18:00
入場料:無料
💡前半・後半で一部作品の入れ替えあり。
🪞会場構成・出品リスト
会場構成
肉筆画と版画を暁斎芸術を形づくる重要な表現として位置づけ、全14のテーマに沿って双方を合わせて展示する構成です。テーマ名として公開されているものとしては「美とモード」「花鳥風月」「戯画・狂画・諷刺画」などが挙げられています。
前期(〜6月21日)と後期(6月22日〜)で展示替えが実施されており、一部作品は後期のみの公開となります。
出品点数と構成
肉筆画 60点・版画 94点、合計167点。
そのうち65点が東京初公開で、内訳は肉筆画60点のうち35点、版画94点のうち30点が初公開です。
主な出品作品
肉筆画(注目作)
✨《大津絵戯画》——画工が手がけた大津絵から念仏鬼が現れるという名工譚を題材にした作品。本展が全国初公開。
✨《鴛鴦図》——20代前半の作と推測される新発見の肉筆画。江戸狩野派の画風を色濃く残す最初期の一作。全国初公開。
《惺々暁斎団扇絵聚画帖》——肉筆団扇絵15枚を収めた画帖。現存する肉筆団扇絵の画帖は他に例がなく、2019年のサントリー美術館展でも名品として紹介された秘蔵の逸品。
その他、《神功皇后 武内宿禰 見立端午節句人形図》《雪中鷲兎図》《巨勢金岡作画図》など。
版画(注目作)
《新板かげづくし》——欧米列強を揶揄したとされる作品。
《狂斎百圖》——ことわざを題材にユーモアを交えた連作版本。
図録
展示作品全167点を収録した図録が販売されており、全作品に藤田昇氏による解説付き。年譜・署名・印章の一覧も掲載。176ページ・全カラー・1,000円(税込)⚠️現金のみ。
あわせてどうぞ
詳しい活動はこちらから→【プロフィール】
お仕事のご相談はこちらから→【お問合せ】


コメント