混じりながら、生まれるものーー「研修生(プラクティカンティン)」多和田葉子
- 4 日前
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📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
「地球に散りばめられて」三部作を読んで以来、その文章と香りに魅了され、毎月多和田葉子さんの本を1冊は読むことにしています。今回は「研修生」を読み終えたので、皆さんと共有できたらと思います。
「地球に散りばめられて」三部作もまた、言語と境界を越えて生きる人々を描いた作品であり、「研修生」はその原点ともいえる自伝的な物語です。
💬多和田葉子さんの作品を取り上げています。
📚混じりながら、生まれるもの。
『研修生』
著者:多和田葉子
出版年:2025年
出版社:中央公論新社
人は人生のどこかで、ここではないどこかへ旅に出て、あてもなく時間も自分も忘れ、旅の一部になりたいという願望を持つことがある——そう言われています。でもわたしは正直に言えば、30代後半になるまでそのような願望を抱いたことがありませんでした。それがどうでしょう、今では空を見上げれば白い機体が運ぶ異国への移動手段、飛行機の中の人間をほぼ必ずといっていいほど想像しています。
ここではないどこか。それは国境を越えて、足の裏で違う土地の土を踏みしめること。
そこで暮らしながら書くこと。
本書は読売新聞で2023年11月25日から2025年3月11日まで連載された、多和田さんの半自伝的長編小説です。80年代に大学の卒業式を待たずに一人インドを巡り、そのままドイツのハンブルクに降り立った主人公。書店取次会社で研修生として働くために。
会社に勤めながら、社内の部署を一週間ごとに移動していく生活。同僚たちとのドイツ語でのやりとり——その克明な会話や場面描写に、ページを読む手が止まらなくなります。ハンブルクで生きる人々は主人公を含め、異国からやってきた多様な背景を持っています。一人ひとりの来歴や抱えるもの、仕草を主人公は細やかに観察し、吸収していく。その地に集まった人々が多声音楽のように輪を広げていく様子は、日本にいるとなかなか経験しづらいことです。
印象的なのは、主人公が名前で呼ばれないこと。出会う人々をファーストネームで呼ぶ主人公自身は、ただ「あなた」と呼ばれています。
研修生として朝から夕方まで、残業なしで働く日々。その後は友人やその友人たちと交わり、遊ぶ。学校やテキストでは学べないその交友こそが、一番の勉強となっていきます。積極的に出かけていく主人公の中に、やがてふつふつと、ある意欲が湧いてきます。それは——書くこと。小説を書くことです。
言葉が溢れ、書くことが追いつかない。縦書きの原稿用紙の、何も書かれていない四角いマスに、文字を定着させたい。収めたい。日本を離れ、その土地の土を踏み、立ったとき、主人公はようやく自分が書きたかったものと向き合い始めます。
そのとき初めて、主人公は名前で呼ばれるのかもしれない。
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