2026展覧会レポート#31|春の江戸絵画まつり 長沢蘆雪@府中市美術館
- 4月30日
- 読了時間: 5分
更新日:5月1日
📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
東京で64年振りに開催する長沢蘆雪の作品を見に府中市美術館に足を運びました。
開幕直後から話題になり、SNSでも入り口に長蛇の列ができているのを目にしていたので、気構えて、朝一番に出発しました。
しかし府中駅までの電車の旅、府中駅から美術館まで徒歩移動で、予想以上に時間がかかってしまいました。そして長蛇の列に並ぶこと30分(以上)。やっと会場に入りました。
府中市美術館、みなさんは訪れたことがありますか?
わたしは実は今回が初めての来訪でした。こうして美術展レポートを書くようになってから、初めての場所に向かう機会が増えました。
出不精のわたしの行動範囲も好奇心もちょっとづつ、じわじわと拡がるのを自覚しています。

長沢蘆雪とは
長沢蘆雪(1754-1799)享年45歳。
は、江戸時代中期に活躍した絵師で、円山応挙の門下にあたります。写実を重んじた応挙の系譜にいながら、どこか型からはみ出したような自由さと思い切りのよさをあわせ持った人物です。
会場を歩きながら感じたのは、「うまい人」であるがゆえに、きちんと描こうと思えばいくらでも描けるにもかかわらず、そこに満足せず、ユーモアと滑稽さ、愛らしさ、朗らかさ、大胆さをも絵の中に込めていたということ。大真面目なのか「遊び」なのか、人生に起きることをまるごと肯定するような、大らかな人という印象を受けました。
展覧会の見どころ
① 21世紀も魅了する「究極のかわいい」
正直に告白します。
わたしはこれまで「かわいい」というワードを少し侮っていました。
しかし蘆雪の圧倒的な技巧、絵の巧さ、説得力、細部の描写で描かれた本気の作品を前にしながらも、ころころした犬たちが戯れる姿に、わたしは究極の忘我状態になってしまいました。
展覧会レポートを書くことを前提に会場を回り、キャプションを読んでメモをとり、緊張と集中の状態を保ちながら作品を見ていたはずが、そんなのどうでもいい!と手が止まりました。ころころしたゆるい犬をただただ拝めただけで充分、という気持ちになったのです。
そして、そのときたまたま1本の電話がかかってきて、平静をざわつかせ自分を、ふと別の次元へそらしてくれる、あの犬のころころ感がたまりませんでした。
「かわいい」という感情がもたらす忘我状態は、絵を見て脳がその内容を理解するというだけでなく、心理的・感覚的・本能的に何らかのドーパミンが出ている状態です。
動物(特に犬や猫)との触れ合いは、人間に「幸せホルモン」「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンを分泌させ、ストレス軽減、リラックス効果、血圧低下をもたらすといいます。実際に生きた動物ではなく、ガラス越しに見る約270年前の絵師が描いた犬の写生に、そのときのわたしは確かに慰められていました。
② 後期の目玉:和歌山・無量寺の《竜虎図襖》と《唐子遊図襖》
展覧会は前期・後期で展示替えがあり、後期の目玉である重要文化財《竜虎図襖》(1786年)を見ることができました。和歌山・無量寺本堂の襖絵で、応挙の代わりに蘆雪が描いたとされています。大きな虎と竜が対で描かれていますが、蘆雪の虎はどこか猫のようで、やっぱりかわいい。森の王者としての雄姿ではなく、やさしい虎です。「トラはトラでもやさしいトラ」と親族から言われているという寅年生まれの友人の父の話を、思わず思い出してしまいました。
《唐子遊図襖》もまた愉快な襖絵で、滑稽でユーモアあふれる犬たちがなんと「相撲大会」に駆り出されている場面が描かれています。下描きである《唐子遊図襖画稿》(江戸時代中期)も併せて展示されており、その線の迷いのなさ、画面へのピタリとした収まりは見事というほかありません。
③「奇想」と「凄腕」の二面性
蘆雪の魅力は、卓越した写実の技術と、そこからはみ出すような奇抜な発想の両立にあります。きちんと描ける腕を持ちながら、あえてユーモアや滑稽さを選ぶ。その振り幅の大きさこそが、蘆雪という絵師の性格的な癖なのか、禅の影響なのか。この部分をすくい出し展覧会を企画した方の先見の明が光ります。
企画した人が気になる
府中市美術館は駅から徒歩約20分、バスも出ています。
会場は広大な公園の中にあり、展示フロア自体はそれほど大きくなく、二、三度見て回っても疲れないコンパクトな空間です。
その会場に、開幕からものすごい数の観客が列をなして訪れ、ガラス越しに作品を食い入るように見つめている。
この光景を生み出した企画は、いったい誰によるものなのでしょうか。
市の美術館でこれほど秀逸な展覧会を、蘆雪のころころわんちゃんにスポットライトを当てる形で実現させた仕掛け人は、相当敏腕な学芸員さんではないかと、そんなことまで想像してしまいました。
鑑賞後、駅へ向かう道すがら、偶然犬とすれ違ったり、犬が描かれたものを見つけたりしたのでした。蘆雪の犬が、まだわたしの目の中に残っていたのかもしれません。
これから見に行く方へ
会期は5月10日(日)までですが、連日大変な混雑が続いています。
入場まで30分以上列に並ぶことは必須と思って準備していくのがおすすめです。
並んでいる間に読書をしたり、飴をなめたり、ちょっとしたスキマ時間を楽しめるものを持参するといいですよ!
また、鑑賞後のミュージアムショップの会計待ちも長蛇の列になります。
ショップに並ぶ時間もあらかじめ見込んだうえで、ゆったりと鑑賞を楽しんでくださいね。
【春の江戸まつり 長沢蘆雪】
会期:2026年3月14日(土)~5月10日(日)
前期:3月14日(土曜日)~4月12日(日曜日)
後期:4月14日(火曜日)~5月10日(日曜日)
会場:府中市美術館
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
入場料:800円
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