2026展覧会レポート#32|宇都宮美術館開館30周年・市制施行130周年記念ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たちヴァルラフ=リヒャルツ美術館所蔵@宇都宮美術館②
- 5月4日
- 読了時間: 9分
📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
前回の記事では会場の雰囲気や展覧会の概要をお伝えしました。
今回はいよいよ作品の話です。
実は今回の宇都宮行きには、もうひとつ叶わなかった美術展計画がありました。
アーティゾン美術館で開催中の「クロード・モネ 風景の問いかけ」展です。
残念ながら今回は見送りましたが、そのぶん宇都宮美術館での鑑賞は期待が高まりました。
駐車場から緑の丘に向かう道。
広々した芝生の脇道を通り、階段を登った先にある美術館に入ります。
💬『ゴッホの跳ね橋と印象派の画家たち①』鑑賞後のファースト・インプレッションを記しています。
展覧会の構成をざっくりおさらい
会場は全6章構成。
第1章「印象派以前」から第6章「20世紀の色彩画家」まで、
約80年分の絵画の変遷をひと続きで体験できます。
第1章は1845年頃の作品からスタートし、第2章がバルビゾン派、第3章が印象派の中核メンバー、第4章がポスト印象派、第5章が点描派、第6章がフォーヴィスムへとつながる色彩画家たち。最後の作品はモーリス・ユトリロ《サーカス・或いはヴォージラールの祭り》1927年です。
最初の《漁からの帰り》1845年頃と並べてみると、82年の間に絵画がいかに大きく変わったかが一目でわかります。
第3章の印象派には、ピサロ、シスレー、モネ、モリゾ、ルノワール、ギヨマン、そしてカイユボットと、まさに「THE・印象派」と呼べる面々が揃いました。
一方、数か月前に見た「オルセー美術館展」に出品していたドガやバジールの名前はここにはありませんでした。それぞれの展覧会が持つコレクションの個性が、こういうところに出ます。
注目した3点
① フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》1888年
本展の目玉作品です。
約10年ぶりの来日、そして栃木県では初公開。
実物は思ったより小ぶりなサイズでした。しかし画面の隅々まで神経を研ぎ澄まし仕上げられています。
南仏アルルの光を映した空の青、黄色と黄緑の橋、水面の反射。色彩はきらきらと純粋で、混じり気がありません。
この作品の隣には、ゴッホの初期作《ニューネンの農家》1885年が展示されていました。黒を基調とした暗く沈んだ色合いで、一軒の農家を画面いっぱいに描いた横長の作品です。
《跳ね橋》の透明感あふれる色彩と並べると、わずか3年の間にゴッホの絵がどれほど変わったかが一目瞭然です。
オランダ時代からアルル時代へ。
その心理的・物理的な距離が、二つの作品の色の違いにそのまま表れているようでした。
ひとつ心残りを言うなら、2点の間隔が少し広く感じたこと。
それぞれの作品が強い個性を持つだけに、壁面の限りあるスペースにもう少し近づけてもよかったのでは?というのが正直なところです。
② エドゥアール・マネ《アスパラガスの束》1880年
マネの晩年の傑作で、本展でもっとも楽しみにしていた作品のひとつです。
展示は深紅の壁に1点のみ。
白いアスパラガス、緑の葉、黒い背景。
ほぼ3色で構成されたシンプルな画面に、深紅の壁の色が呼応して白・黒・緑をいっそう際立たせていました。
展示空間そのものが、この作品のために設計されているかのような印象でした。
近づいて見ると、マネの筆致は遠目に見たときと寸分も変わらず崩れません。
アスパラガスの艶、湿り気、みずみずしさがそのまま伝わってきます。
黒い背景は重苦しくも謎めいてもいない。
右端にほんのり差し込まれた黄土色が、画面に奥行きをさりげなく生んでいます。
この作品にはユニークな逸話があります。
マネが高値でこの絵を買ってくれたコレクターのもとに、後日「束から一本抜けていました」と言って、アスパラガス1本だけを描いた小品を届けたというエピソードです。
フランス流のユーモア、あるいは感謝の返礼。
そのエスプリが、作品とエピソードと一緒に語られ、残されています。
会場のミュージアムショップでは、この作品の缶バッジ(500円)が売られていました。白・黒・緑・黄土色のあの絶妙な配色が缶バッジにも再現されていて、購入しました。
③ ギュスターヴ・カイユボット《セーヌ河岸のボートと小屋》1891年
印象派の仲間たちを経済的に支え続けた画家として知られるカイユボットですが、今回は彼の「外」の作品に注目しました。
カイユボットといえば以前の記事でご紹介した室内作品のイメージが強い方も多いかもしれません。床を磨く男たちや、自邸の暖炉脇に飾るために描かれたという絶筆のヒナギク。
いずれも室内の光と静けさを捉えた作品でした。
この《セーヌ河岸のボートと小屋》は、その印象とは少し異なります。
水辺の光、ボートの質感、草に覆われた土手。印象派らしい明るい筆触でありながら、構図の取り方にカイユボット独特の俯瞰的な視点が感じられます。
水面のきらめきと小屋の静けさが同じ画面に同居していて、見ていて飽きない1点でした。
モネやルノワールの華やかさとは一線を画しながらも、第3章のなかでルノワールを正面に対になるように展示されていたので、彼は喜んでいるのではないでしょうか。
壁の色が、作品を変える
今回の展覧会を通じて、あらためて強く意識したことがあります。
それは、展示室の壁面の色です。
油彩画は多くの場合、アンティーク・ゴールドの重厚な額縁に収められています。
しかし現代の展覧会では、その額縁以上に壁面の色が作品の「額」としての役割を担っているのではないか、と感じることが増えました。
今回の会場でも、章ごとに壁の色は異なっていました。
深い緑、漆黒に近い紺、深紅、そしてホワイト。
なかでも印象的だったのは、第2章と第5章の白い壁面です。
ホワイトキューブに絵を掛けるというのは現代美術では洗練された見せ方ですが、
19世紀から20世紀にかけての古金の額縁と油彩画には、白い壁がどこかそぐわない、落ち着かない印象を与えることがありました。
一方、深紅の壁に単独で掛けられた《アスパラガスの束》は、壁の色と作品の色彩が完全に呼応していました。
白・黒・緑という限られた色がいっそう鮮明になり、あの空間全体がひとつの作品のように感じられました。
《跳ね橋》の壁面については、きらきらと純粋な色彩を持つ作品だけに、もう少し壁の色が作品に寄り添っていたら、また違う輝きを見せてくれたかもしれない、という思いが残りました。展示環境への関心は、作品そのものへの関心とどこかで地続きなのだと、今回あらためて感じました。
皆さんはどう思われますか?
展覧会を振り返って
全6章・70点を通して感じたのは、「印象派」というひとつの言葉では収まりきらない、画家たちの個性と時代の多様さでした。
各章には、その画家が「スタイルを確立する以前」の作品も並んでいます。
「こんなものも描いていたのか」という発見が随所にあり、画家を点ではなく線でとらえる楽しさがありました。
また第5章の点描派には、スーラやシニャックといった名前は知っていても、アルベール・デュボワ=ピエやアルフレッド・ウィリアム・フィンチといった、今回初めて出会う画家の名前もありました。
そして最後に第6章まで歩いたとき、自分の頭の中にある「印象派」のイメージが、展覧会に行く度に少しずづ書き換えられます。今回の宇都宮美術館もそのひとつとなりました。
あわせて見たい
常設展
企画展と同時開催で、常設展「令和7年度 第3回コレクション展『装飾と芸術のあわい――ウィーン分離派の時代』」も開催中です。
会期:2026年4月19日[日]~ 6月21日[日]
会場:宇都宮美術館
開館時間:午前9時30分 ~ 午後5時 (入館は午後4時30分まで)
入場料:1,200円
🪞巡回会場・会場構成・出品作家一覧
♦巡回情報
会場 | 会期 |
宇都宮美術館(栃木県宇都宮市長岡町1077) | 2026年4月19日(日)〜6月21日(日) |
あべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区阿倍野筋1-1-43 あべのハルカス16階) | 2026年7月4日(土)〜9月9日(水) |
名古屋市美術館(名古屋市中区栄二丁目17番25号) | 2026年9月19日(土)〜11月29日(日) |
♦会場構成
会場は全6章で構成。
光と色彩の変化を軸に、19世紀後半の美術の流れを立体的にたどる。
第1章「印象派前」 風景画が独立したジャンルとして成立していく過程が示される。イギリスのピクチャレスク趣味や鉄道網の発達を背景に、ノルマンディーなどの風景が画家たちの重要なモティーフとなっていった。
第2章「バルビゾン派」 身近な自然を理想化せずに描こうとした画家たちの動向に焦点を当てる。フォンテーヌブローの森を拠点に、戸外での制作を通じて自然観察に基づく表現が深められた。都市化の進展とともに自然への関心が高まるなか、こうした風景画は広く支持を得るようになった。
第3章「印象派」 1874年の第1回展を起点とする革新が紹介される。筆触や色彩によって光の印象をとらえる手法は従来の絵画観を大きく揺さぶり、当初は批判を受けた表現も個性の表出として評価され、近代美術の重要な転換点となった。
第4章「ポスト印象派」 印象派以後の多様な展開が示される。セザンヌ、ゴーガン、ゴッホらはそれぞれ異なる方向から表現を深化させた。外界の印象から内面的な感覚へと関心が移ることで、絵画は新たな段階へと進んでいった。
第5章「点描派」 色彩を点として配置する科学的な手法が紹介される。印象派の感覚的な筆触を発展させ、より構造的な表現へと展開した。
第6章「20世紀の色彩画家」 フォーヴィスムやナビ派など、色彩を主軸とした新たな試みが展開される。写実から離れ、色そのものが画面の中心となった。
♦主な出品作家と作品名
各章で言及された主な作品を章ごとに整理。
第1章「印象派以前」より
✨エドゥアール・マネ《アスパラガスの束》1880年 油彩、カンヴァス
カミーユ・コロー《ヴィル・ダヴレー》1860-70年頃 油彩、カンヴァス
第2章「バルビゾン派」より
ジャン=フランソワ・ミレー《横たわる裸婦》1846-47年
第3章「印象派」より
クロード・モネ《アニエールのセーヌ河》1873年 油彩、カンヴァス
クロード・モネ《エトルタの浜辺の漁船》1883-84年
ピエール=オーギュスト・ルノワール《縫物をするジャン・ルノワール》1898年 油彩、カンヴァス
第4章「ポスト印象派」より
✨フィンセント・ファン・ゴッホ《跳ね橋》1888年 油彩、カンヴァス
ポール・ゴーガン《ブルターニュの少年》1889年 油彩、カンヴァス
第5章「点描派」より
ポール・シニャック《カポ・ディ・ノリ》1898年 油彩、カンヴァス
第6章「20世紀の色彩画家」より
📸SNS🙅🏻♀️アンリ・マティス《コルシカ、古い製粉所》1898年 油彩、カンヴァス
📸SNS🙅🏻♀️モーリス・ドニ《ピンク色の教会、ティヨロワ》1921年
※全出品作は42名・70点。
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