2026展覧会レポート#58|高浜利也 目黒でいえあつめ 転石のやがていずこに流れるか@目黒区美術館
- 4 日前
- 読了時間: 6分
📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
今夏3回目となる銅版画展を見に、目黒区美術館「高浜利也 いえあつめ 副題―転石のやがていずこに流れるか」に行ってきました。
高浜利也さんが武蔵野美術大学の教授だというプロフィールは、実は後から知りました。積み木の「まち」インスタレーションや、参加型の「いえあつめプロジェクト」、北海道根室市を舞台にした「落石計画(おちいしけいかく)」など、参加型の展示を見ているうちに、「もしかして教育の現場に関わる方なのでは」という印象を受けたからです。

黒に収斂する部屋、色彩が広がる部屋
会場は二つのフロアに分かれていて、同じ作家の作品でありながら、アプローチも雰囲気もまったく異なる空間になっていました。チラシのキービジュアルも二種類用意されていて、どちらをメインに撮ろうか迷ったのですが、今年の夏はずっと銅版画の「黒」を辿ってきていたので、今回黒い作品の写真を選びました(↑上記画像)
一方のフロアは「THE・銅版画」と言いたくなるような、黒で統一された空間です。高浜さんはもともとリチャード・セラや原口典之といった金属彫刻の作家に惹かれていたそうで、その関心が、銅版を削り、磨き、腐食させるという制作方法へと展開していったといいます。溝の深い、腐食の跡が大きく残る作品群、そして毎日無線綴じで一冊にしている「Black Diary」、「落石計画」の映像上映――このフロアからは、蓄積と破片、崩壊と修繕といったテーマを強く感じました。
もう一方のフロアは一転して、カラフルで賑やかな声が聞こえてきそうな世界が広がっています。黒のフロアが自分の内側へと収斂していく空間だとすれば、こちらはそこから外へ広がり、多くの人を巻き込んでいく多様な世界です。
誰もが参加できる「いえあつめプロジェクト」
ひとつとして同じもののないオブジェは、会期が始まってからも増え続けています。
これが、来場者なら誰でも参加できる「いえあつめプロジェクト」。会期中、来館者が木っ端を選んで思い思いの「いえ」を作り、展示中の「まち」に加えていく参加型作品です。最終日にはフロア一面、足の踏み場もないほどになるかもしれません。私が見に行った時間にも、子どもたちや大人、海外から来た方などが、作ったばかりの家をそこに加えている光景に出会いました。どこから写真を撮っても絵になる空間です。
このフロアにはもうひとつ、下目黒小学校6年生の児童が制作した“ペリペリ版画”も展示されていました。紙版画とも、モノタイプとも違う手法で、正式には「メディウムはがし刷り版画」と呼ばれるもの。高浜さんが大学で師事した小作青史先生が考案した版画技法だそうです。私が小学2年生の頃に体験した紙版画(厚紙を切り貼りしてインクをつけ、バレンで摺るもの)とはまったく違う仕上がりで、本格的な版画作品として成立しているのに驚かされました。
カラフルな色を重ねられ、自在な線が描け、インクのグレーの階調も最後まで残る――まるで銅版画のような仕上がりになることに、目から鱗が落ちる思いでした。
版画を因数分解する
高浜さんはかつて仕事で建築の図面を描いていたそうで、制作にも直線を積極的に取り入れています。「版画」という表現を構成する要素をひとつずつ因数分解していくように、活動を細分化してきた作家なのだと感じました。
銅という物質に注目する。版に注目する。複製に注目する。エディションに注目する。錆びることに注目する。刷ることに注目する。
そうやって版画を因数分解していくと、最大の特徴として残るのは「刷り取る」という行為です。高浜さんはこれを中心に、あらゆるものを「刷る」という方法へと還元していきます。たとえば、社会そのものを「刷る」ことも可能なのではないか。そんな発想の先に「いえあつめ」があるように思えました。
知らない人同士が、隣り合いながら刷り続ける
人の手から次々に生まれ、増殖していくオブジェは、ひとつひとつは小さくても、集まることで大きく広がっていきます。多様なものが一箇所に集められたときの声の大きさ、自由度、そして混じり合い方。
積み木の「まち」も、いえあつめプロジェクトも、ペリペリ版画のワークショップも――思えばすべて、見る人に手を動かさせ、考えさせる協動だったのかもしれません。展示の冒頭で感じた「教育の現場」という印象は、あながち的外れではなかったようです。
高浜さんの中心にある「版画」の因数分解は無数の式を生み出し、その解に辿り着くまで思考し、思索し、増えては壊れ、作り直され、入れ替わりながら、この社会を巻き込んでいきます。或るいは、社会に巻き込まれながらそれを写し取る、刷り取るということだろうか。知らない人同士が隣り合いながら、刷り続けていく――そんな展覧会でした。
会期:2026年6月27日(土)~8月30日(日) ※月曜休館(7月20日は開館、7月21日は休館)
会場:目黒区美術館
開館時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
入場料:一般900円(ぐるっとパスで無料)
🪞作家プロフィール・会場構成・主な出品作品
高浜利也(たかはま としや)
1966年兵庫県生まれ。武蔵野美術大学大学院で版画を学び、現在は同大学油絵学科教授。銅版画を軸に、建築や都市、社会へと関心を広げ、各地の風景や人々との出会いを作品化してきました。
1998~2000年、2005~2006年にはタイ・バンコクに滞在し、客員研究員として活動。2006年の越後妻有アートトリエンナーレでの「小出の家」を機に、土地や場所に根ざしたサイトスペシフィックな活動を本格化。2008年からは北海道根室市の旧落石無線送信局跡を舞台に「落石計画」を継続しています。2001年には「VOCA2001」奨励賞を受賞。
目黒区美術館との接点
2026年6月27日~8月30日、目黒区美術館で個展「高浜利也 目黒でいえあつめ」を開催。2009年にも同館でワークショップを行っており、今回の展覧会では目黒区立下目黒小学校の児童との共同制作も紹介されました。
会場構成
銅版画コーナー:初期作から新作まで、高浜の代表的な銅版画シリーズが並ぶ(Tokyo House Project、House in Shanghai、朽ちる家、Community on the move/Railway など
積み木の「まち」インスタレーション:目黒区立下目黒小学校6年生との共同制作「Community on the move / SHIMOME-CHO」を中心に、児童制作の版画がまちを取り囲む形で展示
参加型「いえあつめプロジェクト」:会期中、来館者が木っ端を選んで「いえ」を作り、展示中の「まち」に加えられる(13:00〜17:00)
《Black Diary》:手に取ってページをめくれる版画本。傷んだ際は高浜自身が会場内の工房で補修
落石計画(おちいしけいかく)関連展示:北海道根室市落石での野外プロジェクトの資料・映像
主な出品作品(ピックアップ)
作品名 | 制作年 | 技法 |
振れるまなざしより / a・b | 1992 | 銅版画(220×125cm・200×125cm、bは町田市立国際版画美術館蔵) |
逃れ行く視線 / D・E | 1991 | 銅版画(大型) |
土壌のFe / a | 1997 | 銅版画(109.5×114.5cm) |
TOKYO HOUSE Ⅱ (two-storied) | 2002 | 銅版画(119×105.5cm) |
House in Shanghai-1 | 2008 | 銅版画 |
小出の家/紫陽花を植える場所 | 2007 | 銅版画 |
Community on the move / Railway-5 | 2011 | 銅版画(122×122cm) |
朽ちる家シリーズ(複数点) | 2018〜2022 | 銅版画 |
Copperplate print in Ochiishi シリーズ | 2025 | 銅版画(落石計画関連の新作) |
Community on the move / SHIMOME-CHO | 2026 | 木っ端によるインスタレーション |
下目黒小学校でいえあつめ(全74点) | 2026 | ペリペリ版画(児童制作) |
My Life | 2020頃〜現在 | 版画蛇腹本+石膏キューブ |
ieatsume / mmat(168点組) | 2026 | 銅版画 |
Black Diary(288冊組) | 2020頃〜現在 | 版画本 |
目黒のガラス壁(点数可変) | 2026 | 銅版画 |
21-Sep-25 | 2025 | 映像(約480分の定点撮影) |
全66点(うちNo.45・46は児童・共同制作、他は全て高浜利也作)。
あわせてどうぞ
詳しい活動はこちらから→【プロフィール】
お仕事のご相談はこちらから→【お問合せ】

コメント