かわいい、自在、剥き出しーピカソの陶芸、江戸の犬、ベーコンの言葉。2026年6月前半の読書から。
- 5 日前
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📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。
2026年6月の読書から、読後感の良かったものをご紹介します。
最近わたしが読む本は、美術鑑賞に出かけてそこから派生する本や、もっと知りたいと思う本を選ぶことが多いです。今関心があるもの、鑑賞を通して好奇心を持ったもの。小説はタイトルや翻訳者、装丁から選ぶこともあります。
6月前半は、ピカソ展を見たことをきっかけに『ピカソの陶芸』と『フランシス・ベーコン インタヴュー』を、そして「かわいい」という感情を日本美術史の中で照らした金子信久『かわいい江戸の絵画史』の三冊を取り上げます。
💬これまで紹介した本はこちらからご覧ください。
📚 生命の喜びと自在さに満ちた陶芸201点。
『ピカソの陶芸』
著者:解説・監修:岡村多佳夫
出版年:2014年
出版社:パイ インターナショナル
この本にはピカソの陶芸作品が201点収録されています。ページをめくるたびに創作意欲が湧いてくる、行動を促す本です。
ピカソは予め職人が作った壺や皿、カップや花瓶に絵付けをするだけでなく、自ら粘土をひねり、彫刻的な加工を加えることで、まったく新しい立体造形を生み出していました。器のかたちから出発しながら、そこに自在に息を吹き込む。生命の喜びや解放を前面に、心と身体が赴くままにデッサンするように——いや、食べたり飲んだり歌ったりお喋りするのと同じような自然さで形と絵が一体になっているような印象を持ちました。
💡これらの作品の一部が、現在開催中の「ピカソmeetsポール・スミス」展、「ピカソ・ミロ・バルセロのセラミックーカタルーニャへの愛ー」展で見ることができます。
画集と鑑賞を合わせると、二倍楽しめるこの時期をぜひ皆さんも。
📚言葉を超えた慈しみの感情。
『かわいい江戸の絵画史』
著者:金子信久
出版年:2023年
出版社:エクスナレッジ
第1版(2020年)と第2版(2023年)を比べると、新たに《狗子図》と《菊花子犬図》のページが加えられています。この追加が意味深です。蘆雪の犬にさらに焦点を絞ることで、「かわいい」という感情の輪郭がよりくっきりします。
p.34に、こんな言葉があります。
「かわいいとはそもそも相手への同情や思いやりから生まれる感情」。
語彙の引き出しが乏しいから「かわいい」と言ってしまうのではなく、言葉にしきれない慈しみや愛おしさを抱えたとき、人はその感情を「かわいい」と呼ぶ。そういうことかもしれません。蘆雪が小さきものやか弱いものへ向けるまなざしと、それを描く筆の力加減には、他の絵師とは異なる思い入れの深さがありました。
作品の一部は5月に閉会した「春の江戸絵画まつり 長沢蘆雪」展でみることができました。
📚痛みを絵画にした画家が、誠実に語る。
『フランシス・ベイコン・インタヴュー』
著者:デイヴィッド・シルヴェスター著小林等訳
出版年:2018年
出版社:ちくま学芸文庫
20世紀を代表する画家ベーコンが自身について語った貴重な対談録です。
インタビュアーはデイヴィッド・シルヴェスター。文庫版で読みました。
ベーコンはピカソの絵画からインスピレーションを受け、発展させた作品を描いています。作品が本文中に掲載されているので、どの作品に言及しているのかを確かめながら読み進められるのもいいですね。
生い立ちから制作過程まで、シルヴェスターがかなり踏み込んだ質問を繰り出しますが、ベーコンはそれに誠実に答えます。ベーコンの絵画には痛みという身体的な刺激があります。絵画がどのようなものであるべきか、なぜそのような絵画を目指すのか——その問いへの答えも、対話の中に丁寧に織り込まれています。
ベーコンがピカソとマティスについて語る場面は、読んでいて「的を射ている」と何度も頷きました。
💡現在ベーコンの作品は「YBA」展と「日曜美術館50年展」で見ることができます。
三冊を並べて
「かわいい」「自在」「痛み」
三冊はそれぞれ異なる感情を掻き立てます。
ピカソの陶芸は、形と絵の境界を軽々と超えていきます。蘆雪の筆は、言葉にならない慈しみをかたちにします。ベーコンの絵画は、身体的な痛みそのものを画面に定着させます。
三者三様でありながら、共通しているのは「感情を、技術と衝動で可視化する」という一点です。
美術鑑賞をしてから本を開くと、作品の見え方が変わります。本を読んでから作品を見ると、また別の何かが見えてきます。どちらが先でもいい。この三冊はそのどちらにも応えてくれる本たちでした。
来月の三冊もどうぞご期待ください。
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