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食べる、見る、読む——日常からすこし外れた三つの場所。|2026年8月前半の読書から。

  • 8月16日
  • 読了時間: 5分

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


2026年8月前半の読書から、3冊をご紹介します。


台風の影響でこの1週間は雨や曇りが続き、身体的には少し楽な日が続きました。

皆さんはいかがお過ごしでしょうか?


早いもので、長い長いと思っていた夏休みも後半戦に突入します。

今年は夏という特別な季節に合わせて、選ぶ本も「衣替え」し、これまであまり読んでこなかったジャンルの本を手に取っています。


それは、食をテーマにしたショートストーリー(短編集)です。

さまざまな食べ物や料理を通して、人とのつながりを描く作品を読んでいます。登場人物の時間を一つひとつ読みながら、丁寧に、美味しく、ゆっくりと味わっています。今まで読んでこなかったジャンルと作家にトライし、読書時間はあっという間に過ぎていきます。



💬これまでご紹介した本はこちらからご覧ください。




📚この図書館、何かが違う。

『図書館のお夜食』

著者:原田ひ香

出版年:2023年

出版社:ポプラ社


図書館もお夜食も好きなワードなので、その組み合わせに惹かれて手に取りました。図書館司書が仕事終わりに食べる夜食と仕事について書かれた本かな、とあたりをつけて読み始めると、微妙に違いました。この図書館、何かが違う。


置いてあるのは、すでに亡くなった作家の蔵書です。引き取ったもの、寄付されたもの。展示はしていますが貸出はしておらず、入館料は一回千円。月パスや年パスもありますが、決して安くはありません。そしてこの図書館の開館時間は夜7時から深夜12時まで。「夜の図書館」と呼ばれています。


そんな図書館にひょんなことから働き始めた主人公、樋口乙葉。SNSを通じて誘いを受け、ZOOMで面接をし、働き始めます。勤務時間は午後4時から深夜1時まで。館内のカフェで夜食が出て、住むところ付き。給料は高くはないけれど、本が好きで本に携わることが好きな乙葉は気に入ります。


本作は5つの短編を合わせたオムニバス形式です。一話一話に登場する夜食のメニューは、実際の文学作品に登場するものです。井上靖、向田邦子、『赤毛のアン』、田辺聖子、森瑤子——軽めでさらさらといける、夜食にぴったりのメニューが揃っています。


原田ひ香は食べることと本と人間模様を、私設図書館の成り立ちという背景とともに紡ぎます。温かくほっこりする物語を描くのではなく、オーナーとスタッフ、叔母と甥、作家と恋人、本と人——それぞれの関係。ほっこりを期待して手に取ったけれど、原田のリアリストの筆が光っていました。



📚くじ引きで決める運と人との縁

著者:冬森灯

出版年:2023年

出版社:ポプラ文庫


物語の舞台は、落ち込んだ人だけがたどり着ける不思議な洋館「うしろむき夕食店」です。店を切り盛りするのは、凛とした女将・志満と、不幸体質ながら明るく働く希乃香。この店のユニークな仕掛けが「料理おみくじ」です。メニューを決められない客のために、その人に刺さる一言とともに料理が書かれたおみくじを引く。食べるものが決まらないとき、人はえてして人生の岐路にも立っているものかもしれません。


店の本当の名は「夕食店シマ」ですが、いつしか常連客の間で「うしろむき夕食店」という愛称が広まります。「うしろ」——それは古きよき時代を思わせるなつかしい雰囲気であり、うしろを振り向けばそこには自分が辿ってきた日々があり、自分にしか醸し出せない時間がある。その豊かな時間を人と共有できる場としての夕食店。

そう考えると「うしろむき」という言葉には温かさがありますね。


敗北でもなく、勝負でもない。ただそこにいるだけで安心できる、知る人ぞ知る場所。

後を向けば見えるものもある、この店はそっと教えてくれます。



📚メルカリと競り、江戸の目利き。

著者:朝井まかて

出版年:2025年

出版社:講談社


朝井まかての筆は、骨董という小難しく玄人の世界を学術的・芸術的に描くのではなく、あくまで天保の時代に生きた商人や庶民の生活に根ざしたところで描いています。歴史小説でありながら職業小説としての側面が強く、読者は現代にも通じるヒントや知恵を自然に見つけることができます。


現代の通信販売やネット販売の原型とも言える発想が、江戸の商人の知恵として描かれています。また、命がけで競り落とす瞬間の緊張感や、真偽だけが問題ではないという目利きの矜持が、読んでいてハラハラし興奮する場面として随所に登場します。

誰もが手軽に売買できるメルカリに代表されるネットオークションも、いわば「競り」であり、勝負ごとでもあります。売り手と買い手の境界が混濁し、誰もが同じ土俵に立つ現代において、この物語は誰が読んでもヒントになる箇所があるかと思います。


一品でも多く見て、自分で値をつけてみる。その繰り返しによって磨かれる目利きは、誰に頼ることもない直観と実地経験の大切さを説いています。

情報が溢れ、AIが価値を判断する時代だからこそ、この言葉は重く響きます。



三冊を並べて


落ち込んだ人だけがたどり着ける夕食店。

江戸の骨董商が磨いた目利き。

亡くなった作家の蔵書が眠る夜の図書館。


舞台はどれも、日常からすこし外れた「特別な場所」です。

共通しているのは、食べること・見ること・読むことという、人間の根本的な営みを描いている点です。おみくじで料理を決める夕食店は、迷いを抱えた人をそっと受け止めます。

一品でも多く見て自分で値をつける骨董の世界は、AIが価値を判断する時代に直観と実地経験の大切さを説きます。夜7時に開く図書館は、亡き作家の蔵書と夜食を通して、本と人、人と人の関係をリアリストの眼で描いています。


情報が溢れ、答えをすぐに求められる時代に、三冊はどれも時間の外にあり、自分自身の流れを整えているような気持ちです。後ろを向けば自分の残した形跡が。一品でも多く見る積み重ね。夜にしか開かない扉。そんな世界が本の中に存在し、ほっとする時間になった8月前半の三冊です。



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