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2026展覧会レポート#18|北欧のテキスタイルと暮らし展 Beauty for ALL

  • 3月17日
  • 読了時間: 9分

📍いつもブログを読んでくださりありがとうございます。


今年は服飾やテキスタイルといった針と糸を使った手仕事や、織や染の展覧会に足を運ぶことが増えました。そのひとつとして、閉会まであと数日というタイミングで面白そうな展覧会を見つけたので、急遽見に行ってきました。


日本橋高島屋S.C.本館8階ホール「北欧のテキスタイルと暮らし展 Beauty for ALL」展をご紹介します。


💬2026年1月|「上野アーティストプロジェクト2025刺繍―針がすくいだす世界」展


💬2026年1月|「アール・デコとモード京都服飾文化研究財団(KCI)コレクションを中心に」展


💬2026年2月|「TSUGU つぐ minä perhonen」展①前編


💬2026年2月|「TSUGU つぐ minä perhonen」展②後編


日本橋高島屋S.C.で開催された「北欧テキスタイルと暮らし展 Beauty for All」レポート。スウェーデンとフィンランドの19〜20世紀の手仕事から現代アートまで、暮らしと美の思想をたどる。
2026年3月4日(水) - 3月16日(月)|「北欧テキスタイルと暮らし展 Beauty of ALL」|日本橋高島屋S.C.本館8階ホール

日本橋高島屋S.C.本館8階ホール「北欧テキスタイルと暮らし展 Beauty for All」


この展覧会における「北欧」は、主にスウェーデンとフィンランドの2カ国を指しています。展覧会では、この2国で主に19世紀から20世紀にかけて制作されたテキスタイルが紹介されています。後援もスウェーデン大使館とフィンランド大使館の2館が務めています。


北欧では、寒い冬を乗り切るために古くから織物が作られ、やがてインテリアやアートとして発展し、多種多様なテキスタイル文化が花開きました。


手工芸が大量生産品の勢いに押されていた19世紀末、スウェーデンの思想家エレン・ケイは著書『Beauty for All(美しさをすべての人に)』を発表。


「美しいと感じるものと暮らすことが幸せをもたらす」という考え方は北欧全域へと浸透し、デザイナーをはじめ多くの人々に大きな影響を与えました。


北欧と言うと寒くて陽が短いという印象がありますが、その土地の特徴から家の中で過ごす時間が長く、インテリアやファブリック、テキスタイルという分野が発達したというのを耳にします。


その土地の気候に合わせて民藝や手仕事が栄え、堅実で丁寧な仕事が品に結びつき、色合いや形、素材や意匠が健康に育まれたというのは柳宗悦著『手仕事の日本』に記述があります。ここ日本でも北陸地方の民藝や手仕事の品は、用途と美しさが分かちがたく結びついています。


日本橋高島屋S.C.で開催された「北欧テキスタイルと暮らし展 Beauty for All」レポート。スウェーデンとフィンランドの19〜20世紀の手仕事から現代アートまで、暮らしと美の思想をたどる。
第1章 織の国、北欧|どの織物も丁寧に織られていて、こちらの体温を上げてくれるかのような温かみを宿しています。この品はどれも作者不詳です。

第1章 織の国、北欧


タペストリーやテーブルクロス、乗り物用の布が展示されているブースです。

温かみのある赤やオレンジ、茶や黄色、紺色や紫がかった藍色という色彩と、幾何学やノルディック柄をした模様が厚手の糸で織られています。


どの織物も丁寧に織られていて、こちらの体温を上げてくれるかのような温かみを宿しています。この品はどれも作者不詳です。

ここで先ほど挙げた『手仕事の日本』の中から興味深い箇所を引用します。

興味深いことには、方々で廻り会ったそれらの品物は、それがどんなに美しい場合でも、一つとして作った人の名を記したものはありません。時として何地名産とか、何々堂製などと貼り紙の附いている場合もありますが、個人の名は何処にも記してありません。」(「職人の功績」p.238)

「実に多くの職人達は、その名を留めずにこの世を去っていきます。しかし彼らが親切に拵えた品物の中に、彼らが活きてきた意味が宿ります。彼らは品物で勝負をしているのであります。物で残ろうとするので、名で残ろうとするのではありません。」(同著 p.240)

タペストリーや織物を見てこの箇所が頭によぎりました。

19世紀、テキスタイルを作ることは女性が身につけるべき重要な嗜みのひとつでした。暮らしを支える大切な財産として重宝されたのです。


第2章 Beauty for All――美しさを価値へ


第2章に進むと、19世紀後半の工業化に対し、手仕事の価値と尊厳を守ろうと、1899年にリリィ・ジッケルマンがスウェーデン手工芸協会を設立。

社会思想家のエレン・ケイは「美しいと感じるものと暮らすことが幸せをもたらす」と呼びかけました。この考えは北欧全域に浸透しました。


日本橋高島屋S.C.で開催された「北欧テキスタイルと暮らし展 Beauty for All」レポート。スウェーデンとフィンランドの19〜20世紀の手仕事から現代アートまで、暮らしと美の思想をたどる。
第3章 デザインの黄金時代――織とプリント、それぞれのモダニズム|会場全体を使って天井からテキスタイルが吊るされています。わたしたちの背丈よりはるかに長いたっぷりした布を下から上に眺める布の杜。

第3章 デザインの黄金時代――織とプリント、それぞれのモダニズム


現在でもよく目にするマリメッコのデザインが登場します。


会場全体を使って天井からテキスタイルが吊るされています。

わたしたちの背丈よりはるかに長いたっぷりした布を下から上に眺めながら、プリントの中を歩く愉しさや、薄い布のもつ揺らぎや、色とりどりの色彩と動植物のモチーフに近づいて見るその距離感。


会場を訪れた人たちのオシャレな服装とテキスタイルの調和。

服飾やテキスタイルの展覧会では会場に来るお客さんたちの服装や靴、小物なども洒落ていているのです。

時代がクロスし、美しいものを身に付けること、色を選び組み合わせること。

自分自身がひとつの部屋であり、空間なのでは?と考えるのです。


ここで紹介されているデザイナーはアストリッド・サンペ(1909–2002)、ゴーダ・トレカルド(1904–1954)、ヴィオラ・グロステン(1910–1994)、マイヤ・イソラ(1927–2001)など、女性のデザイナーたちです。

アストリッド・サンペは1940年代初頭に自分の生地にサインを入れ始めた先駆者として知られています。


面白いなと感じたデザインは、スウェーデンの建築家スヴェン・マルケニウスの《ピタゴラス》(1954年)。建築空間と共鳴するような構築的なパターンのテキスタイルと、塗り残しのような幾何学模様がデザインされていて、建築図面のような印象を与えました。


これまでの北欧デザインにはなかったような、原子や分子構造というミクロの世界をモチーフにしたテオドール・スヴェドベリの《アトミクス》(1954年)も、意表を突くデザインでした。


日本橋高島屋S.C.で開催された「北欧テキスタイルと暮らし展 Beauty for All」レポート。スウェーデンとフィンランドの19〜20世紀の手仕事から現代アートまで、暮らしと美の思想をたどる。
第4章 さらなる自由へ――表現の場として広がる可能性|それまで家庭のインテリアや閉じた空間に向けられていた主眼が、公共施設への設置という外界へ開かれていきます。

日本橋高島屋S.C.で開催された「北欧テキスタイルと暮らし展 Beauty for All」レポート。スウェーデンとフィンランドの19〜20世紀の手仕事から現代アートまで、暮らしと美の思想をたどる。
マルヤッタ・メッツォヴァーラ《貝》 1964 年 フィンチュア |メッツォヴァーラがデザインしたこの作品は、今でもヴィンテージコレクターに人気のラグです。アメリカ系フィンランド企業のフィンチュア所有のこのデザインは現在ポルトガルで生産されています。

第4章 さらなる自由へ――表現の場として広がる可能性


図書館や教会といった公共施設にラグやタペストリーなどの装飾を展示している写真もありました。個人的にはこの第4章の作品に最も惹かれました。それまで家庭のインテリアや閉じた空間に向けられていた「美しいと感じるものと暮らすことが幸せをもたらす」という主眼が、外へ開かれていく様子を見ることができたからです。


外に向けられたとき、多くの人が集う場所ではそのデザインに何を織るのか、何を伝えるのかというメッセージや普遍的なモチーフへと変化します。


スウェーデンの古い伝承を背景にしたアグネータ・フロックの《月への祈り》(2022年)や《手の中の鳥》(2019年)、抽象絵画や印象画を思わせるリトヴァ・ブオティラの《魔除け》(1965年)、エヴァ・ロデニウスの《旅立ちⅠ》(1984年)のように、個人の人生の転機となる時の信条をテーマにした作品もありました。


日本橋高島屋S.C.で開催された「北欧テキスタイルと暮らし展 Beauty for All」レポート。スウェーデンとフィンランドの19〜20世紀の手仕事から現代アートまで、暮らしと美の思想をたどる。
メリッサ・マルヴェーラの《Joy》2021年|作家とこの作品が室内空間で展示されている写真は展示の参考になりました。

最後の展示スペースは2020年以降の作品です。

メリッサ・マルヴェーラの《Joy》(2021年)、《珊瑚》(2020年)、アイノ・カヤニエミの《おとぎの国》(2015年)。この3点は現代性があり、わたしの目にも馴染みがあり共感できる作品でした。

メリッサ・マルヴェーラはリサイクル素材の活用を大切にしています。


使い捨て文化や忙しすぎる現代社会への疑問を投げかけると同時に、自然の多様性を守ることを大切にしています。

テキスタイルアートと彫刻の境界が揺らぐような表現に可能性を見いだしているという。

彼女の作品は素材の多様性や不変的な形をしていて、外的な要素によって揺らぎ変化します。その可塑性がテキスタイルに顕れていて、魅力を放っています。


百貨店という特殊な空間で


鑑賞した後、ふつふつと思い浮かんだのは、百貨店というスペースでこれだけ充実したテキスタイルを鑑賞できた驚きと愉しさでした。

美術館やギャラリーとは違って専門的な空間ではないにも関わらず、会場全体はコンパクトで動線もそこまでよくないながら、かなりの数の作品が並び、魅せ方にも工夫が凝らされていました。


18日間という短い会期でこれだけしっかりした展示構成を組み立てられるということ。

わたしが個展をするときは大体7日間という単位ですが、展示構成や見せ方の参考になる部分が多くありました。


会場全体を使うダイナミックな構成(天井から吊るす、作品の周りを歩けるなど)

テキスト資料

・作品が日常生活でどのように生活空間に交わるかという具体例の提示(写真パネルなど)

・作品作りの過程を見せる映像

・座る椅子(家具の選定も展覧会主旨にちなんだもの)など小物に対する配慮


百貨店という特殊な空間であっても、これだけ構成できるということは大きな発見でした。

会場を出るとグッズ売り場があり、図録のほか関連書籍も豊富で目移りしてしまうほどでした。

ミナ・ペルホネン『TSUGU』展図録、ハンス・ウェグナー『織田コレクション ハンス・ウェグナー』展図録、柚木沙弥郎本も販売していました。


テキスタイル、家具、デザイン、暮らしに関連する分野——衣食住に関わるわたしたちの日常生活に、ライフラインと同等に不可欠なものだと改めて感じました。


次につづくものとして柳宗悦が開設した日本民藝館創設90年記念 河井寬次郎と濱田庄司」展六本木クロッシングの出展作家、テキスタイルを使った作品を制作する沖潤子さんの個展を見に出掛けたいと思います。


会期:2026年3月4日(水) - 3月16日(月)

会場:日本橋高島屋S.C.本館8階ホール

開館時間:10:00 - 19:00

入場料:1,200円



BASEでは2026年カレンダーやポストカードやドローイング作品を取り扱っています。是非一度ご覧になってみてくださいね。


🌸3月17日更新📝【note:もうひとつのブログ】

noteではWixブログで書いた内容を、読みやすくわかりやすいテキストにしています。

写真を交え、わたしのアートについて発信しています。こちらも是非楽しんくださいね。



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